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第119話

「いい家族だね、心があったまるよ」 途中まで見送ると俺も風早に着いていった。風早の家までは数分。でもその数分だけでも一緒にいたかった。 「よかった・・・。俺もあんなに家族で話したの初めてかも」 「今日改めて思ったよ。幸と出会えてよかったなって、幸を好きになれてよかったなって」 夜の道は人気が少なく、俺たちの歩く音だけが響く。時折奥で車のエンジン音が聞こえる。風早の声が、息遣いが、心臓の音までもが聞こえてくるような錯覚を覚えた。 「毎度毎度よくそんな歯の浮くセリフが言えるよな・・・」 「幸だからだよ。幸には本心を話したいんだ。内緒事なんてしたくないからね」 街灯が俺たちを優しく照らす。夜空に紛れていた風早の顔がくっきりと見えた。 —ありがとうございます。むしろ嬉しいです。険しい道ってことは、それだけ乗り越えれば幸と深くつながることができるってことなんです。俺はそう思っています— そう言った時と同じ顔をしている。無性に抱きつきたくなって、俺は辺りをキョロキョロ見回した。 「ん、どしたの?・・・わっ」 誰もいない。ぎゅうと抱きつくといつもと同じ風早の匂いがする。そのまま自然とキスする流れになって、お互い口の中がシチューの味がした。 「あぁもう可愛いんだから」 風早の言う"可愛い"が好きだ。心地いいし、毎回照れる。口では嫌だって反抗するときもあるけれど本当は好きだ。とっくに風早にはバレてるんだろう。 「お盛んだねぇ」 後ろから声をかけられた。風早が一瞬体を硬くさせたけど、誰かわかった瞬間大きなため息を一つ。 「三保か・・・」 「俺じゃ悪いかよ」 急いで俺が風早から離れようとすると、また力強く抱きしめられた。 「あーあー、怖い男だよほんとお前」 俺からは全く見えないが、鹿山先輩がいるみたいだ。離せっと抗議しても風早は何も言わない。遂にムカムカして風早の足をちょっと思いっきり踏んづけた。 「痛いっ」 指の付け根のところを狙って踏んだから、風早が思った通りの反応をして飛び上がった。風早の腕の力が緩まって、俺はするんと抜け出す。 振り返れば、ニヤニヤしている鹿山先輩と目が合った。 「よかったな〜、幸」 鹿山先輩のニヤニヤ顔を見ていたら、さっきの姉ちゃんを思い出した。姉ちゃんのニヤニヤ顔を思い出していたら、今度は風早のニヤニヤ顔を思い出した。・・・なんかむかつく。 「・・・ま、まぁ」 手ほどきをしてくれたのは鹿山先輩だ。男同士の仕方を全く知らなかった俺からしたら、助けになったのは確かだった。 「三保!」 バタバタと足音がして、街頭に照らされた横井先生が走ってきた。何やら両手にファイルを持っていて、紙が溢れ出しそうだ。 「ん、何してたの?」 それを見た風早が問うと、横井先生が照れたようにガシガシと頭をかいて小さな声でぽそぽそと話し出す。 「ぁー、いえ、家だよ」 「王子の声が小さくて聞こえないなぁ」 「だから、いえ、家・・・」 「いえ?遺影?いえーい?」 「い、家だってば・・・」 今にも落ちそうな紙の束は、よくみれば家の間取り図の書かれた紙だった。2LDKと書かれたマンションや、小さな一戸建てもある。 「もー、あんまり風早は翔太をいじめないでよ」 縮こまってしまった横井先生の前に鹿山先輩が立って、風早を睨みつける。だって楽しくて、と風早が言えば鹿山先輩はまぁわかる、と頷いていた。 「俺たち来年一緒に住むことにしたんだ。高校卒業するし、まぁいいかなって」 「だから、家?」 「そうそう。翔太説得すんのほんと大変だったんだけど、やっぱ毎朝お互いの顔見てたいじゃんって言ったらすんなり住もうってなったんだよ」 鹿山先輩はなんだか風早と似ている、と思う。風早は恥ずかしがらずに直球で気持ちを伝えられるし、鹿山先輩も堂々と気持ちを伝えることができる。いとこだし、似ているのは当たり前かも。 最近俺も風早に好きだと伝えることに抵抗は無くなりつつあったが、それでもやっぱりまだ恥ずかしいのだ。 どうしたらこうなれるんだろう。

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