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第120話
「そういえば、さっき守見たけど・・・なんかやばそうな奴らとつるんでたぞ」
その言葉に風早は一瞬眉をピクリと動かした。栗原守の話題をするといつもこうだ。あからさまに不機嫌になる。鹿山先輩もそれを感じ取ったのか、訝しげに風早を見つめた。
「・・・あんなやつなんか知らないよ」
冷めた声だ。世界中の水が凍ってしまうほど冷めた声。こんな声で話しかけられたら俺も凍ってしまう。
「一応兄弟みたいなもんなんだろ?構ってやれよ、可哀想だろ」
「どうでもいいから」
きっぱりとそう告げた風早に鹿山先輩はやれやれと首を振った。
隣で横井先生が心配そうに二人を見つめている。鹿山先輩が横井先生に向かって口パクで何かを伝えた。俺にもわかる、大丈夫って言ったんだ。
「お前がどうでもいいって思ってても相手はそう思ってないかも知れないだろ。守も子どもなんだよ」
「そんなの俺に関係ないから」
頑なに栗原と関わるのを嫌がっている。やっぱりあの試合の出来事で、だろうか。でも、風早があのことでそんなに怒っているとは思えない。
「か、関係ないってお前・・・」
「関係ないからっ!!!!」
風早が大きな声で怒鳴った。俺たち以外誰もいないこの道に、風早の声が響き渡り、すぐにしんと静まる。
我にかえったのだろう、風早がすぐにハッと鹿山先輩を見つめてごめん、と小さく謝った。
「あ、たま冷やしてくる・・・ごめんね」
そう言った風早が、俺のおでこにちゅっと小さいキスを落として早歩きで去って行った。何も言えず突っ立っていると、鹿山先輩が大きなため息を一つついた。
「まぁ、許してやってよ、あいつも色々大変なんだよ多分」
知ってる。俺だって知ってる、風早の弱い部分。本当は泣き虫で臆病で甘えん坊なところも。
風早が歩いて行った時も、瞳が少し潤んでいたし、きっと風早のことだ。鹿山先輩に怒鳴ったことを後で後悔するのだろう。
「・・・わかって、ます」
こくりと頷くと、鹿山先輩は嬉しそうに笑った。
風早はきっと栗原に対して臆病になっている。栗原に会った後の風早は静かに涙を流していて、ぎゅうと俺にしがみついていた。
—関係ないって、なんだよっ!!!後継じゃなくなったからって、なんでも許されるとは限らない—
栗原の言葉が頭に浮かぶ。・・・関係ない、か。風早はよく関係ないと言うけれど、それは本当なのだろうか。本当に、関係ないのだろうか。
「か、帰ります・・・俺も」
気まずくなって、俺は踵を返して歩き出した。
後ろから鹿山先輩が声をかけてくる。
「なんかあったらすぐ言えよ。力になるからさ。保健室くらいなら貸してやるからさ」
「適当なこと言うなよ〜」
振り返ると、横井先生が鹿山先輩にちょっかいをかけている。不思議だ、あの二人を見ていると風早に会いたくなる。さっきまで会ってたのに。
俺は小さくお辞儀をして家へと戻った。
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