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第122話

俺の方を見つめながら言うものだから俺もどうぞ、と答える。卵焼きを取って口に入れた風早はまたもや大げさすぎるリアクションで人を呼んだのだった。 「本当に美味しかったよ、ありがとう」 一粒も米を残さず綺麗に食べ終わった風早は、満面の笑みでそう言った。 「よ、よかった」 お弁当箱を洗って返そうと、風早が自分のカバンに入れるのを止めて受け取る。お弁当を作るって言い出したのは俺だし、一つ洗うのが増えたって特に苦でもない。 母さんに手伝いを申し込まれたら渋るくせに、こういうことは率先してできてしまうのだから好きってすごいんだなと思った。本当に好きな人とみんなが過ごしたらダラける人間なんていないんじゃないか。 「俺幸の家の卵焼き好きだよ」 「・・・お、おう」 「幸みたいな甘い味がするから」 「お、おう・・・?」 「部活帰りの幸の味がするんだよ」 料理部では比較的におかずよりお菓子作りの方が多い。調理室もそこまで広くはないので、香りが充満しやすいのだ。服に染み付いているのはわかるが、味と言われると・・・、なんだろう。変な気分だ。 「味って、なんだよ」 「味は味だよ、味」 「は、はぁ・・・」 理解に苦しんでいる俺をよそに、風早が携帯を見つめて口元を緩めていた。覗き込むと、先ほど撮ったお弁当の写真だ。さっきまで見てたくせにもう見てるのか。 「新婚さんは毎日こんなステキな生活してるのかな・・・」 さっきから風早が気持ち悪い。頬杖をついてはぁ、と意味深なため息をついてはまた携帯の写真を見つめて、その繰り返しだ。流石に俺も引く。 これは。 距離でもとろうと、教室を抜け出して廊下の端にあるトイレに駆け込んだ。後ろで風早がどこ行くの〜とか声を掛けてきたが無視した。 「あれ、幸先輩」 中で手を洗っていたらしい樹がこちらを向いて俺の名を呼んだ。首元に何やら赤い跡を見つけた俺は無言で樹のシャツのボタンを留めてやる。 「ん、え、なんですかなんですか」 「首元についてる・・・」 「ん?首?」 もしかして付けられたことにすら気づいていないのだろうか。トントンと首元を指差して小さい声でキスマークとつぶやく。すると樹の顔がかぁぁと真っ赤に染まった。 思ったより海と仲良くしてんじゃねぇか。 「え、もしかして、俺今日ずっと・・・」 「まぁ、襟で隠れてたかも知れないけど屈んだら見えたかもな」 「えぇぇぇぇぇ!い、いつの間に・・・」 留めてやったボタンをわざわざ外して樹が自分の首元を洗面台の鏡です確認する。やっと確認できたらしい樹がより顔を真っ赤にさせて縮こまってしまった。 「仲良くなってよかったな・・・」 誰と、なんて言わなくても通じた。しゃがみこんだ樹がこくこくと頷いている。その後小さくまた幸先輩、と俺の名を呼んだ。 「・・・ん?」 「男でも、潮って吹けるんですね・・・」 「は?」 樹は海と付き合いだして何か変わった、そんな気がする。

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