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第123話

横井先生と那智が用事で部活に来れなくなり、放課後の活動は休みになった。 風早は来月に控えてるバスケの選手に助っ人として出場することが決まったらしく、バスケの練習で放課後は一緒に過ごせなくなったのだ。 手持ち無沙汰になった俺は暇になり、フラフラと寄り道をしながら帰路に着く。 あるカフェの前で見知った人物を発見して俺はびくりと驚いて立ち止まった。 「く、栗原守・・・」 サングラスにマスクを着けているが、バレバレだ。 カフェの前にある葉っぱの茂みに身を隠して、カフェを覗いているようだ。 完全に不審者だ。 何をしているのだろう・・・。 話しかけるか数分迷った挙句、俺は栗原の近くまで寄ってみることにした。もしかしたら俺の見間違えで、栗原じゃないのかも知れない。第一今を輝くスーパーアイドルがこんなところで何をしようというのだろう。 一歩、二歩、三歩と近づいてその人物はやはり栗原だと確定した。周りから見れば不審者っぽいので事務所的にアウトなんじゃないか。あんまり芸能に詳しくはないけれど。 風早と栗原。仲が悪い二人に何があったのだろう。きっかけがあったのだろうか。いや、あったからこそ風早はあんなに怒っているのだ。 首を突っ込んでいいのか悪いのか、分からなかったが何だか今の栗原を怖いとは思えなくて、俺はまた一歩栗原に近づいた。 「あ、あの・・・」 無用心にも俺がいくら近づいても気づかなかった栗原は俺が声をかけることでやっとこちらを向いた。俺の顔を見るなりげぇ、と顔を歪める。 「あいつの・・・」 これ、か。と栗原が自身の小指を立てて言った。今時そんな風に恋人を表現する人がいるのだ、と何だかおかしく思った。というか、小指を立てるのは女って意味じゃなかったっけ。 ・・・なんでだよ。 何も反応しなかった俺に栗原が余計顔をしかめる。マスク越しでよく見えないが、眉間がシワシワだ。アイドルがそんなことしていいのか、事務所的に。 「な、にしにきたんだよお前」 「それは俺のセリフ、何してんのこんなとこで」 俺の問いに栗原がぐぐ、と唸って黙る。見たところカフェの中には特に変わったとこもない。客が三人ほどいるだけだ。 そこまで考えて俺はある答えに思い立った。 「あ、もしかして撮影中?俺邪魔した・・・?」 周りに機材は見えないが、何かの撮影中に違いない。俺は思わず立ち上がって二歩ほど後ずさる。 俺の頭の中は一瞬で真っ白になって、グルグルと生放送だったらどうしようとか栗原があいつのコレ、と示したところも映ってたらどうしようとかとにかく瞬時に色んなことが頭を駆け巡る。 「ち、ちけぇからちげぇって」 立ち上がった俺を栗原が急いで座らせる。大声を出すな、と口を塞がれて俺の頭の中は軽く学級崩壊みたいなものを起こした。 しぃー、と栗原が必死に俺を宥めるのですぐに俺も茂みに身を潜めた。その時、チリンチリンと音が鳴ってカフェの扉が開かれる。 中から出てきたのは大柄な女性だった。大柄だけどめちゃくちゃに美人だ。 ヒールを履いているせいか余計にデカく見えて、デカいなぁと栗原に声をかけようとしたら可愛い・・・と声を漏らす栗原が隣にいた。 「え」 「可愛いだろあの人、ああいうの俺超タイプ」 可愛くないわけじゃない。だがデカすぎてどうも頭の片隅にひょっこり出てくる考えがあるのだ。 男じゃないのかって。 「もしかしてここにいる理由って・・・」 恐る恐る俺が問えば、栗原は真剣な顔をして人差し指を口に当てる。 「誰にも言うなよ、あの人追いかけてる」 「ま、まじかっ」 「大きな声を出すな!!」 「ご、ごめん・・・」

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