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第125話

「な、なんで付いてくるんだ、お前」 必死で走る栗原について行って何分経っただろう。ようやく諦めたのか、栗原がある空き地に入ってぜぇぜぇと息を切らしながら座り込んだ。 「だ、だって栗原が逃げるからだろ」 「お前が追いかけてくるからだろ」 「あのランって人お前の顔見て目輝かしてたんだし、逃げる必要なかっただろ。お前も強引に行けばいいんだよ」 「お前も、ってなに。あいつのこと言ってんの?俺とあいつ、一緒にすんな」 あ、やべ、しくった。もちろん、あいつとは風早のことだったが無意識だった。 「きょ、兄弟なんだろ」 あーあー、違う違う。この間の言い合いを俺は忘れたのか。 風早は鹿山先輩に兄弟なんだろって言われて激情した。だったら栗原だって。 「・・・そう、だけど。あいつは俺のこと弟だとは思ってないから」 と思ったら意外な反応をされた。 「え・・・」 「何?お前もあいつの為に動いてるのか?みんなみんなあいつの為にやってるのか?」 俺なんかどうでもいいんだよ、震えた唇から告げられた栗原の本音。 「そんなこと・・・」 「あるだろ、お前は俺のこと嫌いだもんな。お前の大好きな風早を傷つけたのは俺だもんな」 病院のベットに寝かされた風早の姿が頭によぎる。頭に巻かれた痛々しい包帯は見ていて俺も苦しかった。だけど、言いたいことを言えたのは、あの場だったからに違いない。 誰もいない病室で、夜だったから、俺は素直になることができたのだ。 あの夜の出来事がなければ、俺たちの心はすれ違ったままだった。 「お前のお陰で俺は風早と付き合うことができたんだ」 「はぁ?お人好しもいい加減にしろ。そんなわけ無いだろ」 「ある、あるから」 「どういう意味・・・」 一から全部説明するのは億劫で、俺はとにかく、と栗原の言葉を遮る。俺も栗原の隣に座り込んで、はぁと一息をついた。 「か、感謝してる・・・」 真剣な気持ちが伝わって欲しくて、俺は栗原の瞳をサングラス越しに見つめる。ゆらり、と揺らいだ瞳が栗原の正直な気持ちを表していた。 「ほんと、意味わかんないよ、お前」 「・・・わかんなくていいよ、もう」 「なんなんだよ、お前・・・」 「お前、じゃない。幸」 気恥ずかしくて、名前を言った後すぐにそっぽを向いた。 「・・・幸」 「何」 「俺も、守でいいから」 くいくい、と袖を引っ張られて俺は数秒かけて栗原の方を向き直す。栗原はサングラスもマスクも外していた。 「・・・守」 「おう」 お互い名前を呼びあって、笑いあった。守の笑顔は昨日見た写真集よりも輝いていて、かっこよかった。 なんて、風早に言ったら怒られるかな。

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