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第127話
床に置きっぱなしにしていたカバンを拾い上げて部屋へと向かう。風早が後ろからついてきて、あれはなんの部屋なの?とか言ってくるので書斎、だとか姉ちゃんの部屋、だとか答える。風早の本家の家と比べても少ない部屋数に、風早はへぇ、と頷いた。
「幸の部屋にはさ」
「・・・なんだよ」
「ないの?」
「何が」
「えっちな・・・本とか」
「ねぇよっ」
ほんとに?疑いながら風早が俺の部屋に入ってすぐにベッドの下を覗き始めた。持っててもそんなとこに隠すような初歩的なことはしない。見つかるはずのないエロ本を必死で探している風早が少ししてあ、と声を上げた。
「これ・・・」
ベッドの下にあった棚の引き出しを開いたらしい風早が何かを発見したらしい。なんだ、とそちらを向くと大量の絆創膏の箱を手にした風早がいた。
絆創膏を買いに行った帰りにあのおじさんに襲われてから、俺は通販で大量に絆創膏を買い込んだのだ。それをベッドの下に隠していたのがいけなかったらしい。他の人がベッドの下に絆創膏を隠しているのと、俺がベッドの下に絆創膏を隠しているのは訳が違う。
「あ、しょ、しょうがないだろっ!毎日二つも消費するから・・・」
よくある二十枚セットじゃ二週間も持たないのだ。四十枚セットでも一か月持たない。気づけば百円ショップで百枚入りの絆創膏を見つけるとすぐに買ってしまう癖がついてしまった。
「へぇ・・・そうだよね、幸の乳首は二つあるんだから」
「当たり前だろ・・・」
「あ、この絆創膏透明タイプのやつだ、えっちぃね」
安かったんだから仕方ないだろ!!って怒鳴りたかったが少し我慢して安かった・・・、と小さくつぶやいた。
「絆創膏じゃなくてブラジャーにしたら?今男用のブラジャーも売ってるでしょ?」
「ぶ、ぶぶ・・・」
「うん、ブラジャー」
「つけるわけないだろ・・・目立つし」
「つけたことあるの?」
「あるわけない!!」
「あぁ、なるほど調べたんだ」
図星でう、と言葉に詰まる。絆創膏を貼ろうとする前に一度調べたことがある。乳首、保護って。ニップルシールとかも候補にはあがったのだが、如何せん名前がだめだ。買いに行くのも恥ずかしいし。
「うるさい」
「もぉ、今度あげるから付けてね」
「ぜってぇやだ・・・」
ふんふんー、と鼻歌を歌いながら携帯を弄りだした風早。のぞき込むと、男用ブラジャーって検索していて引いた。
引いたので、風早から少し離れたところで俺も携帯を開く。
『相談、乗ってくんね?』
やはりさっきのバイブ音は守からのメールだった。急いでどうした?とメールを返す。すぐにぽこん、と今度は不安そうなキリンのスタンプが送られてきて、俺は心配そうに眉を下げるクラゲのスタンプを送り返した。
『いつ暇?』
『結構いつでも暇。明日とか明後日とかなら時間作れるかも』
『わかった、また連絡する』
携帯を閉じてふぅ、と息をつくとこちらを疑い深く見つめる風早と目が合った。
「何・・・」
「誰とメールしてたの?」
「え、と、友達」
隠すようにまた携帯をポケットに入れたのがまずかったらしい。このシーンも姉ちゃんの漫画で読んだことあるぞ。なんか浮気を疑っている彼女が彼氏の携帯を盗み見る、みたいなやつ。
「もぉ、幸は内緒事がへたくそなの。わかっちゃうの。変なウソつかないでよ」
「嘘じゃないって・・・別に」
どうして携帯で誰かと連絡とっただけでこんなにグチグチ言われなきゃいけないんだ。そんなに俺が信用できないのかよ。
「幸、好きだよ」
「なんだよ、急に」
「言いたくなったから」
「そうかよ・・・」
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