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第128話
部屋の中が一気に静かになる。いつもならテレビの音とかいろいろ聞こえてくるのに。
「幸は?」
「・・・だよ」
「聞こえないよ」
「だ、から好きだって」
「ありがとう」
ぎゅぅっと抱きしめられて苦しいってうめき声をあげたらまたありがとうと言われた。何がって聞いても風早は答えない。
「チューしてる数とか、好きって言いあう数が少ないと不安になっちゃうんだよ、俺」
「俺たち・・・、少ないのか?」
比べる相手もいないが、少なく感じることがない。というか、風早の態度で恥ずかしいことに、俺が好きだって伝わってくるのだ。恥ずかしいことに。
「少ないよ・・・。俺は朝に一回、昼に一回、寝る前に一回・・・、くらいの頻度じゃないと不安になっちゃう」
「多すぎるだろ!!」
風邪薬と同じなのか、ちゅーは。からかうように食後三十分以内?とか聞いてやろうと思ったけどなんか言う直前に萎えてやめた。
「多くないよ、俺は毎秒幸のこと好きだなぁって思いながら生きてるから」
世の中の人はこういうのが重いっていうのだろうか。コイバナさえろくにしたことがなかった俺からしたら風早と出会ってから全てが初体験なのだ。足りない足りないとつぶやく風早に、本気で嫌だと感じたことはないのできっとそんなに重い訳ではないのだろう。
ということは、つまり世の中のカップルも朝に一回、昼に一回、寝る前に一回、好きだと囁きあいながらちゅーをするのだろうか。
風早に聞いてもきっと即答でうん、と言うのが目に見えてわかったので守に聞くことにした。
そう思うと、なんだか心の内を話すことのできる相手ができて嬉しくなった。心に余裕ができて、俺は風早にキスをした。
今の時間帯は夕方なので、昼の分と数えられるか、寝る前の一回と数えられるのか。きっと昼の分とか言うんだろう、できっと寝る前にもせがんでくるのだ。
「さ、幸ぃ・・・」
嬉しそうに顔を綻ばせた風早がまた抱き着いてくる。何回この流れをすれば気が済むんだっ!!と心の中で叫んでいたらリビングから俺を呼ぶ母さんの声がした。
「ご飯できたわよーっ!!」
母さんに今降りると返事して、離してくれない風早を引き剥がそうとする。毎回思うが、風早のひっつき具合は度を越えている。そこらに売っている接着剤より性能がいいだろう。
「ほら、ご飯できたから降りるぞ」
「俺幸のひっつきむしになりたい」
「意味わかんないこと言ってないでほら離せって」
馬鹿力でんん、と風早の腕を掴んでもびくともしない。もうっ!!と怒ってもあはは、と風早は笑うだけだ。
「離す方法知ってるでしょ?」
少し甘えを覚えると、風早はすぐにおかわりを求めてくる。そのたびにちゅーしなければよかった、と思うのだがやっぱりしてしまうのだ。恐ろしい。
「寝る前に一回、なんだろ。さっきのは昼の分だ」
「今日は特別枠も増やしてよ、お泊りだし。夜ご飯の前に、一回。ね?」
あぁ、もぉ、と二つもため息をついてしょうがないからまたキスをしてやった。一瞬触れるだけのキスだったけれど、風早は満足したようだ。さっきの不機嫌顔からは想像できないほど顔がにやけている。きもいってペチペチ腕を叩いたが、あはは、とまた笑われた。
約束通り離してくれたので、俺たちはご飯を食べにリビングへ向かう。ドアを開くと、チーズのいい香りが鼻孔をくすぐった。
姉ちゃんもバイトから帰ってきていたようで、テーブルに並ぶグラタンを輝く目で見つめている。風早を見てその瞳をより輝かせた。
「風早くんじゃんー!!昨日ぶりだねーっ!!」
ぶんぶんと至近距離で手を振る姉ちゃんも今日は機嫌が良さそうだ。
「お邪魔してます、今日は」
「今日はお泊りしてくれるのよ~」
サラダをテーブルに並べながら母さんが言った。うわぁ、サラダにパクチー乗ってる。我が家の食卓にパクチーが乗っているところなんて初めて見たぞ。
「そうなんです、すみません。一家団欒のところをお邪魔してしまって」
「いいのよいいのよ、風早くんはもう家族みたいなものだもの」
「そうそう!なんたって幸の彼氏だもんねぇ」
家族全員、風早も含めてみんなニコニコしすぎていて不気味だ。ぞぞ、っと背中に悪寒が走ったと思ったら突然リビングのドアが開かれた。
「ただいま」
父さんだ。
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