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第134話

葬儀は大勢の人たちで行われた。俺もお香だけあげさせてもらった。風早はその準備に忙しそうで学校を何日も休んでいる。 俺は特に変わらぬ日常を過ごしていた。いや、変わったことが一つある。守と度々会うようになった、こと。守はお婆ちゃんが死んだことすら最初、聞かされていなかった。 「え、死んだの?」 「うん、俺立ち会ってたから・・・」 「まじかぁ・・・。本格的に後継ぎの話になってくよな。正直逃げたい」 「逃げたい?」 「俺には後継ぐ器はないって自分でもわかってんだよなぁ。そりゃぁ隔離されてた時は風早の方が羨ましかったけど」 そう言って空を仰ぐ守は淋しげだった。そんなことないよ、と言いたかったけれど言ってどうなる?ともう一人の自分が止めた。 風早にはどこか後ろめたい感情を抱きつつも、守と会う日が続いていた。今日も会おうぜ、と守から連絡が入って人気のない小さな空き地に向かう。特に実のある話はしていないが、守は時節後を継ぎたくないと愚痴をこぼしていた。 何日かして、守の元にもようやくお婆ちゃんの死の知らせが届いたようだった。知っていた守はへぇ、とつぶやいただけだという。本家に戻れという指示を守は頑なに断り続け、ずっと暮らしてきたマンションに引きこもってしまった。 一週間ほど経ってようやく風早と再会した。久しぶりに会った彼は、とても疲れている顔をしていた。道端なのにすぐにぎゅうと抱きしめられる。久しぶりの風早の匂いだ。お線香の匂いが混じっていて、お婆ちゃんの笑顔の姿が頭に浮かんだ。 「久しぶり・・・。ごめんね、幸」 「・・・な、なにが」 「会えなくて淋しかったよね」 「お前がだろ」 「幸も淋しかったでしょ?」 「まぁ、ちょっと」 「幸のちょっとはいっぱいっていう意味だもんね」 くたびれた顔で風早が笑う。その笑みに安心するが突然見知った黒い車が道端に止まり、窓がすーっと開く。佐野さんが窓から覗いて、「坊ちゃん」と呼んだ。風早は少し嫌そうな顔をしたが、また「ごめんね」と謝って車に乗り込んだ。 どうして後継ぎじゃない風早がこんなにも仕事していて、守は何もしていないんだろう。心にちくり、と何か嫌な感情が浮かんできてすぐに俺は忘れようと首を振った。

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