134 / 155
第134話
葬儀は大勢の人たちで行われた。俺もお香だけあげさせてもらった。風早はその準備に忙しそうで学校を何日も休んでいる。
俺は特に変わらぬ日常を過ごしていた。いや、変わったことが一つある。守と度々会うようになった、こと。守はお婆ちゃんが死んだことすら最初、聞かされていなかった。
「え、死んだの?」
「うん、俺立ち会ってたから・・・」
「まじかぁ・・・。本格的に後継ぎの話になってくよな。正直逃げたい」
「逃げたい?」
「俺には後継ぐ器はないって自分でもわかってんだよなぁ。そりゃぁ隔離されてた時は風早の方が羨ましかったけど」
そう言って空を仰ぐ守は淋しげだった。そんなことないよ、と言いたかったけれど言ってどうなる?ともう一人の自分が止めた。
風早にはどこか後ろめたい感情を抱きつつも、守と会う日が続いていた。今日も会おうぜ、と守から連絡が入って人気のない小さな空き地に向かう。特に実のある話はしていないが、守は時節後を継ぎたくないと愚痴をこぼしていた。
何日かして、守の元にもようやくお婆ちゃんの死の知らせが届いたようだった。知っていた守はへぇ、とつぶやいただけだという。本家に戻れという指示を守は頑なに断り続け、ずっと暮らしてきたマンションに引きこもってしまった。
一週間ほど経ってようやく風早と再会した。久しぶりに会った彼は、とても疲れている顔をしていた。道端なのにすぐにぎゅうと抱きしめられる。久しぶりの風早の匂いだ。お線香の匂いが混じっていて、お婆ちゃんの笑顔の姿が頭に浮かんだ。
「久しぶり・・・。ごめんね、幸」
「・・・な、なにが」
「会えなくて淋しかったよね」
「お前がだろ」
「幸も淋しかったでしょ?」
「まぁ、ちょっと」
「幸のちょっとはいっぱいっていう意味だもんね」
くたびれた顔で風早が笑う。その笑みに安心するが突然見知った黒い車が道端に止まり、窓がすーっと開く。佐野さんが窓から覗いて、「坊ちゃん」と呼んだ。風早は少し嫌そうな顔をしたが、また「ごめんね」と謝って車に乗り込んだ。
どうして後継ぎじゃない風早がこんなにも仕事していて、守は何もしていないんだろう。心にちくり、と何か嫌な感情が浮かんできてすぐに俺は忘れようと首を振った。
ともだちにシェアしよう!