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第137話
「おうよ、俺はここで待ってるからまた戻って来いよな」
ひらひらと手を振ってカフェから飛び出した。すぐに風早に電話をかける。
『もしもし?風早・・・?』
『幸っ、今どこにいるの?』
風早の声を聞いただけで気持ちが高揚した。走る足が軽くなっていく気がする。
『今、大通りのとこ・・・、お前は?』
『近いかも、コンビニ近くにある?』
『ある、そこで合流しよう』
ちょうど、大通りの入り口のところにコンビニがある。学校から一番近いコンビニで、いつも学生で賑わっている店だ。知り合いに会わないように、コンビニの隅にもたれかかった。会えるんだ、そう思うだけで心臓がバクバクする。
「幸っ!!」
パタパタ誰かが走ってくる音がして、見上げれば風早がいた。俺もすぐに風早の方に走って行って、ぎゅうと抱き着かれる。「大通りだぞっ」って思わず言ったらすぐに小道に引き込まれた。
「会いたかったぁ・・・」
そう言った風早は、俺の首元に顔を埋めてはぁと息を吸い込んだ。汗臭いかも、と思ったが風早は甘い匂いがするね、とつぶやく。さっき飲んだバニラオレかも。
「俺、幸も同じこと思ってくれてて嬉しい。幸からメール来た時、俺もちょうど幸にメールしようと思ってたんだよ。会いたいなぁって」
風早はスーツを着ていた。見たことない風早のピシッと決まった姿を直視できない。だから、キスしようと迫ってきた風早を押し返してしまったのだ。
「・・・、幸?」
「待って、今、待って、・・・ちょっと待って」
かっこいいのだ。とてつもなく。一回落ち着かせようと深呼吸して、ちらりと風早を見たがやっぱり無理だ。見れない。
「なに、なになになに」
ずんずんこちらに迫ってくる風早にただ俺はひぃ、と情けない声をあげて後ずさりした。なんでそんなスーツ似合ってるんだよ、とか髪の毛ちゃんとセットしててちょっとオールバックみたいになってなんか、なんか、なんだよもう。くそかっこいいじゃんかよ。
「な、んでもねぇよ」
「なんでもないことないでしょ?」
「・・・、か、かっこいいなぁって思っただけっ、それだけっ、んぅっちょっ」
噛みつくようなキスをされ、言いたかった言葉は風早に吸い込まれてしまった。ぴちゃぴちゃと恥ずかしい水音が鳴り響いて、耳まで侵されている気分になる。
「今のが朝の分ね」
一瞬だけ唇を離して風早が言う。そのあとすぐにまたキスしてきて、今度は昼の分だねと笑った。最後にもう一回長いキスをして、これは今日の夜の分だ、とまた笑う。じゃぁ、と俺も風早に小さくキスをした。
「いつの分?」
そう問われてんー、と唸る。
「・・・、昨日の夜?」
「あぁぁぁもおおかわいいいいいいっ」
腕がもげるくらいの力で抱き着かれて、痛いと言っても離してくれないので俺もお返しに風早にぎゅううと抱き着いてやった。
「痛いね」
「お前のせいだろ」
しわくちゃになってしまったスーツを風早がパンとはたく。ポケットに入っていた携帯を確認した風早が一瞬怪訝な顔をした。
「・・・、行かなきゃ。ごめんね、もうちょっとで終わるから・・・」
「今、何してんだよ」
「親戚中に挨拶まわりしてる」
でも、それは。言いかけてやめた。醜い感情がひょっこりと顔を出す。行くなよ、って言えたらどんなに楽だろう。
「・・・、そうだね。本当は栗原の仕事だ」
聞こえていたらしい風早がうんと頷いた。
「代理だよ、栗原の。忙しいみたいで、って濁したらみんな芸能人だもんなぁって納得してた」
ははは、と風早の乾いた笑い声がひどく悲しく聞こえた。今、守はキャラメルフラペチーノ飲んでんだよ。風早にそう言ってやりたくなる。お前が仕事する必要ないじゃんか、守に任せろよ。
「初めて会う人ばっかりだったけど、偉い人たくさんいてばあちゃん凄かったんだなぁって思ったよ」
「そっか・・・」
「そろそろ俺行くね。幸に会えてよかった。また時間作れそうだったら連絡してもいい?」
「うん、俺も連絡する・・・」
「ありがとう」
風早がまた小さく俺にキスをした。明日の朝の分ね、風早はそう言って大通りへと消えて行った。
守、お前の仕事を風早は文句も言わずにこなしてんだぞ。
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