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第138話

「お、おかえり・・・」 カフェに戻ると、守が縮こまっていた。なんでだろう、と思ったがすぐに理由が分かった。ランって人がいるんだ。守の隣の隣のそのまた隣の席で、ランはキャラメルフラペチーノを飲んでいた。俺はすぐにさっきまで座っていた席に座る。 「ただいま」 「ど、どうだったんだよ」 明らかに守の声が小さい。そんな風にしたら余計に目立つぞ。 「会ったよ、会えた」 「そっか、よかったな」 きっと守は風早が守の代わりに仕事をしているなんて微塵も思っていないのだろう。親戚に挨拶をしなきゃいけないことすら知らないのかもしれない。このまま言わなかったら、風早はきっとずっと仕事を守の代わりにし続けるのだろう。 「なぁ」 ちょっと真剣な顔をしてそう言ったら、守は「なんだよ」と飲んでいたキャラメルフラペチーノを置いて俺を見た。 「いや、あのな、その・・・」 もごもごを濁していたら守が「なんだよ」と語気を強めて言った。守は風早のことを嫌いなわけではないのだ、ないのだ、と自分に言い聞かせて俺は意を決して話すことにした。 「今、風早はお前の代わりに親戚に挨拶周りしてるんだとよ」 風早の名前を出した途端、守は怪訝そうな顔をした。俺だって別に好きで話しているわけじゃない。俺は守と二人でいるときの楽さが好きだから。 「俺のことなんか言ってた?」 「ううん、守は忙しいんだろうってそれだけ」 「・・・優しいよな、俺と会うときはいつも怒ってるけどさ」 それを聞いて少し安心した。風早の優しさを知っているなら、きっと仲直りだってできるはずだ。 「優しいよ。風早は、守に嫌われてるんじゃないかってすごく不安がってるから」 「は?嫌われてんのは俺じゃね?え、なにその話初めて聞いたわ」 「守は風早のこと嫌いじゃないの?」 俺の問いに、守は迷いなく頷いた。そしてすぐに照れたように横を向く。 「・・・、嫌いじゃないけど苦手だ。俺より全然良いやつだから。俺なんか釣り合わねぇよ・・・」 「守も大概良いやつだろ」 「そんなこと言ってくれるのお前だけだよ」 「いっぱいファンがいるのに・・・。それだけ愛されてるってことだろ?」 「ファンは俺の顔が好きなんだよ、俺の中身を知ってるやつはいないさ」 ちゅう、とキャラメルフラペチーノをたっぷり飲んで守が一息ついた。もう、風早に向かって暴言を吐いていた守の影は見えない。 ―逃げるみたいに俺は今も栗原を避けている。避けようとしてるから、あんな態度とっちゃうんだよ。嫌われてるのもわかってるし、後継ぎに後継ぎにって周りから言われるのがどれだけ圧力かも経験した俺が一番わかってる。わかってるからこそ、逃げちゃうんだよ― 風早の本当の想い。俺は誤解が起きないようにゆっくりとその言葉を反芻して、口を開く。 「昔突き飛ばしてしまったこと、ずっと風早は頭から離れないって言ってた」 「突き飛ばされた話ぃ?あぁぁ、あったなそんなこと」 「そのことでずっと悩んでて、お前にどういう態度とっていいかわからないんだって。嫌われたと思ってるから避けてる、避けようとしてあんな態度を取ってしまう・・・」 守があんまりにもぽかんとした顔で俺を見るものだから、俺も何だか拍子抜けしてしまった。 「風早がそうやって・・・、言ってた?」 「お、おう」 「まじで?」 「まじだよ」 「まじかぁ・・・」 守はよかったぁ、と安堵の表情をして肘をついた。俺もよかったぁ、って気持ちだ。二人の仲直りの手助けくらいにはなっただろうか。

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