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第140話

「やっぱり俺に気があるっぽいよなぁ」 お会計を済ませ、カフェを出ると守がニヤニヤしながら言う。もちろん、名刺を見つめたままだ。 「・・・まぁ、店に呼ぶくらいだし」 もしくは、客を増やそうとしているだけか。多分そうだよなぁ。守には言えないけど。 「つ、ついてきて欲しい」 緊張した面持ちでそう告げられ、断る理由もなかったのでいいよと二つ返事で承諾した。承諾した後ちょっと後悔した。また風早に話しにくいことをしてしまっている。 「俺、風早と話してみる」 「本当か?」 「ちゃんと、謝らないとな・・・」 二人で並んで何も考えずに歩いているといつもの空き地に来てしまっていた。いつみても誰もいないこの空き地は閑散としていて少し淋しい。 「許してくれるよ、風早だし」 「幸がそう言うんだったらそうなんだろうなぁ」 ニカッと笑う守はサングラス越しでもカッコいい。心の重荷が一つ取れたようでとてもスッキリしてるように見えた。 「最近この空き地でマネージャーと待ち合わせることが増えたんだよな」 「そうなのか?」 「人いないし楽、家だとバレたらめんどくさいから」 「・・・なるほど」 キョロキョロと辺りを見回した守がマスクを外す。相変わらずサングラスは付けたままだが、やはりどことなくオーラがある。 「風早って何が好きなの?」 「え、・・・何って例えば?」 「ほら、あるだろ。食べ物とか」 「確か、いちごだったかな」 サッカーの試合で風早にいちごのゼリーを作った思い出がある。樹からの情報だったが、ちゃんと聞いたこともないので本当に合っているかも不明だ。 「いちご・・・、嫌いなものは?」 「おばけだってさ」 「おばけ」 「おう」 「おばけ?」 「風早のお婆ちゃんが言ってたんだから確かな情報だと思うけど」 悪戯っ子のような微笑みでお婆ちゃんが言ったのを昨日のように覚えている。 「じゃぁ吊り橋効果作戦使えるな・・・」 「どういう意味だよ」 「一緒にお化け屋敷に行って、俺が風早をリードしたら仲直りできるっていう作戦だろ!」 「・・・わかんねぇよっ」 似ている、守のこういうところは鹿山先輩にそっくりだ。本当にその作戦でいけると思っているらしい守は、早々に携帯で怖いお化け屋敷と検索していた。 「守はおばけ平気なのか?」 「・・・」 返事がない。ちらりと守を見れば、携帯の画面を見つめたまま固まっている。 「おい、守」 ばしん、と肩を叩くと体をびくりと揺らした守がこちらを見た。 「これ・・・怖すぎ」 そう言ってこちらに見せてきた携帯に写っていたのは、とある遊園地の映像だった。お化け屋敷の紹介ムービーというものだろうか。 「お前もおばけ無理なんだろ」 「無理じゃねぇし!こうなったら絶対行ってやるからな!!幸、お前も絶対こいよ!」 「なんで俺・・・」 正直言って俺もおばけは得意な方ではない。驚かせられたら俺だってビビるし、テンパる。お化け屋敷にも何年と行っていないし。 「俺たちが仲直りするの、見届けろよ、な、な?」 グイグイ迫られてうんと頷く他なかった。強引なやつだ。全くもう。 はぁ、と大きなため息をついたら守に睨まれた。睨みたいのはこっちだっつーの。ぷいとそっぽ向いたら、見知った二人組が路地の隙間からこちらを見ているのを発見した。 「え、・・・」 家の前にいた二人、俺をさらった二人。守の仕業とすれば、この二人は守の知り合いなのだろうか。俺の視線を感じ取ったのか、二人が近づいてくる。守もようやく気付いたようでその二人を見つめていた。 「久しぶりだな」

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