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第141話
「お、お前・・・」
守が怯えたような表情で後ずさりした。え、知り合いじゃないのか・・・。
「最近全然俺たちと遊んでくれねぇよな」
「よぉ、あんたも久しぶり」
にっこりとした笑顔で話しかけられて、俺は何も言えずにただ固まった。
「無反応かよ、つまんねぇな」
一人の男がそう言ってすたすたと近づいてきて俺の手を乱暴に掴む。掴まれたところが痛い。爪が食い込んできて、血が滲んだ。
抵抗すると余計に痛くされそうだ。心の中で平常心平常心、とつぶやきながら何か楽しいことを考えるようにする。
ちらり、と守の方を見ると守も驚いた顔のまま固まっている。
「てめぇ、何か言えよ・・・」
腕は感覚がなくなるくらい痛かった。しかし、それでも何も言わずに固まったままの俺にいら立ったのか、男が声を上げた。刺激しないように、と黙っていたのが逆効果だったみたいである。
「おいっ!!!!」
それでも無口な俺に男が殴りかかってきた。痛みで頭がクラっとした。空が反転して見える。
「さ、幸っ!」
守が俺の方に駆け寄ろうとして、もう片方の男に蹴られているのが見えた。
「守!!」
咄嗟に痛む頭を抑え、守に近づく。ぶるぶると震えている守が涙目で俺に小さく「ごめん」とつぶやいた。
「あーあ、大人気アイドルがこんな感じになっちゃってぇ」
あはは、と狂気的に笑う男が守のサングラスを奪い取る。
「いいサングラスじゃん、いくらすんのこれ」
男が守のサングラスをかけた。厳つい顔が半分隠れたが、やはり怖いのには変わりない。守のサングラスをかけた男に顎を掴まれた。高そうな香水の匂いが鼻を掠める。
甘い匂いだ。余計にクラクラする。
「なんでお前守と一緒にいんだよ。喧嘩でもしてたんじゃないの?」
「仲直りしたんじゃない?さっき一緒にカフェにいたの見かけたし」
「まじかよ、つまんなすぎるだろ」
「俺たちとも遊んでくれないと寂しいなぁ~」
掴まれていた顎を勢いよく振り払われ、体が少し吹っ飛んだ。空き地のベンチに頭をぶつけて視界が揺れる。
「ぅっ・・・」
打ったところがジンジンする。ツカツカとこちらに寄ってきた男がイライラしながら俺の腹を思い切り蹴った。
「ぐ・・・ぁっ」
「やめろ、幸は関係ないだろ・・・っ」
腹を蹴られて蹲る俺の前に守が立ちはだかった。その様子を見て男二人が鼻で笑う。守の髪を掴み、揺さぶった男が声を張り上げる。
「関係ないっ!?お前が巻き込んだんだろっ!!!」
「次は俺たちにどんな命令をする??金くれたらやってやるよ、前みたいにな」
守が男によって軽く吹っ飛ばされる。名前を呼びたくても口が思うように開かない。さっき顎を強く掴まれすぎて変な感じがする。
「お前弱いのな?だから俺たちに頼るしかなかったんだろ」
倒れた守の足をギリギリと男たちが踏んづける。
「がはっ・・・」
痛みで守が声をあげるが、男たちはやめようとしない。ついに顔を殴ろうとした男の足を俺が軽く蹴ることで止めることに成功した。
「あ、なんだよ」
これから撮影だという守の顔に傷でもあれば、仕事ができない。そう思って体が勝手に動いた。しかし、この行為は男たちの機嫌をより損ねることになったのだ。
「ふざけんな、お前邪魔すんなよ」
頬を思いっきり殴られて、口の中が鉄の味になる。指先さえ動かなくなってしまった。動くのは自分の目だけ。俺はその目で守が殴られているのを見ているしかなかった。
しん、と静かになった俺を一人の男が「死んでないよな?」と言いながらこちらに寄ってくる。すると、ぺろりと服をめくられた。傷の具合を見られているのか、と思ったけど違うようだ。拒む力もなくて、黙ったままでいると男が息を呑むのが聞こえた。
「絆創膏・・・、貼ってるのか」
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