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第144話
・・・暇だ。
大きな病院だからきっと中庭とか休憩所とかもあるんだろうけどいかんせんまだ体が痛むので動きたくはない。
かといってそんなに本を読むタイプでもないので、母さんが持ってきてくれた本にはあまり興味もない。昨日樹が那智も来ると言っていたが今日は平日なので来れるとしても夕方になる。
まだ八時じゃないか。
今から何をしようか。手持ち無沙汰に携帯の電源を入れる。着信とメールがたくさん来ていて、返信しようと指を動かせば怪我が痛んたのでやめた。
「はぁ・・・」
テレビを付けてみたが、平日の昼なんて普段見ている番組などない。すぐに消して晴天で暖かそうな空を見上げた。時刻はまだ八時半だった。
満足に動くこともできず、眠るだけの一日だった。
途中急に気持ち悪くなって吐いてしまい、食欲のない俺のために先生が点滴を打つことを進めてくれた。手首に繋がった管を見つめてまたぼーっと過ごしていたら警察がやってきて色々と聞いてきたが上手く話せずまた後日来るよと言われてしまった。
暇だなぁ。
口に出すことも出来ず心の中でつぶやく。ちょうど一人部屋しか空いていなかったらしく、孤独な時間を過ごす。たまにやってくる看護師が何か暇つぶしにと塗り絵を持ってきてくれたが何だか何もやる気が起きなくてしなかった。
夕方になり、日が沈んだ頃トントンとドアを叩く音がした。
「さ、ち先輩・・・」
ガラガラとドアが開かれて、那智が顔を出す。
制服を着て学校のカバンを持ったままの那智は失礼します・・・と小さくつぶやいた。
「幸先輩っ!!」
頭に巻かれた包帯と手首に繋がれた管を見て那智がただ事じゃない、と目を潤ませてこちらへ駆け寄る。
「だい、じょうぶなんですか・・・っ」
那智の問いにコクリと頷いても、那智は俺の言葉を信じてくれないみたいだった。
「でも、大丈夫そうじゃないです・・・」
「へーきだって」
大分口が動くようになって簡単な会話はできるようになっていた。優しく笑って那智の不安を取り除こうとしたが、逆にそれが心配を煽ったようだ。
「あの、これ・・・今日作ったのでよかったら食べてください。でも、口の中も怪我してるんですよね。む、無理だったら食べなくても大丈夫ですっ」
そう言って那智が机の上に小さなきんちゃく袋を置いた。中を開くと芳ばしい香りのクッキーが入っていた。
「ありがと・・・」
「いいえ、なんかあったらすぐ言ってください!僕、幸先輩の役に立ちたいんです」
食欲はなかったけど、無理やり口に突っ込んだ。破片が傷口に刺さって痛みを生んだものの、我慢して美味しいとつぶやくと那智は嬉しそうに微笑んだ。
「よかったです。実はそのクッキー横井先生も手伝ってくれたんです」
こうして病院にお見舞いに来てくれる人がいる、心配してくれる人がいる、その事実だけで胸がいっぱいだった。
だから、その分会えない人を惜しんでしまうのだ。
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