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第145話

あれから四日が過ぎた。口の中の傷も大分良くなり、吐き気などの症状も治まった。お陰で食欲も復活し、点滴も外すことができた。自由にできることも増えて、ただ暇な苦痛の時間も少なくなったはずなのに、どこか淋しい。理由は自分でちゃんとわかっている。 今日こそ、ちゃんと風早と連絡を取ろう。そう思って、携帯を開いた。 『久しぶり、元気か』 悩むと送れなくなるので打った瞬間メールを送った。そのあと、短すぎるのではないかと思い至ってすぐさま別の文章を考える。 『俺は元気になってきたから大丈夫』 これも短いな、と送信ボタンを押してからまた気づく。守と一緒にメールを打った時のことを思い出せ、思い出せ自分。っていうか、あれは俺が打ったんじゃなくて守が打ったんだけど。 うーんうーんと数分悩んで俺は静かに携帯の画面を閉じる。こういうところ、だぞ俺。風早がどう返信するかにかかってるんだ、と勝手に自分に言い訳して俺はまたベッドに寝ころんだ。 コンコン、とドアがノックされてゆっくり開く。ドアから顔を出したのは海だった。 「幸・・・」 俺が入院し始めてから、毎日海がお見舞いに来てくれる。いつも何か差し入れをくれるので、俺の密かな楽しみになっていた。 「あ、海。今日も来てくれたのか」 「調子はどうだ?」 「んー、まぁ変わらないかな」 「最初よりはだいぶ話せるようにはなったな」 入院初日は口内が痛すぎて、うん、しか言えなかったのは苦痛だった。 「よかった・・・、そういえばあいつ来たのか?」 海がベッドの脇の椅子に座る。「あいつ」と言うときの海は少し不機嫌だ。わかりやすい。 「ううん、来てない。連絡もないし、逆に俺が心配・・・。海は会ったのか?」 「学校には来てるけどな、終わるとすぐに帰ってる」 「そっか・・・」 どうして連絡をくれないのだろう。どうして、来てくれないのだろう。俺は海や樹からしか情報を得ることができないので、風早がどんな状態なのかを知ることができない。家に行くこともできない。 「俺・・・、あいつのとこ行ってこようか?」 「いいよ、悪いし」 自分でも思ったより素っ気ない返事をしてしまった。海はあまり気にしていないようだったが、人に当たってしまったという罪悪感に襲われる。 「忙しいんだろうな、多分。あ、これ今日の差し入れな」 そう言って海の差し出してくれたビニール袋に入っていたのは杏仁豆腐だ。しかも、プレミアムクリーム杏仁豆腐。ちょっとお高めのやつだ。 「これ俺好きっ」 「だと思って買ってきた。冷蔵庫入れとくわ」 「ありがとうっ!」 やはり持つべきものは、親友だ。晩御飯を食べた後のデザートにしよう。 「他に好きなものは?」 「っていうか、知ってるだろ」 「知ってるけど、好み変わってるかもしれないだろ」 「変わってねぇよ。甘いもの全般好きだし、あ、俺あれ結構好きかも。梅しそプリン・・・」 「え、まずいだろ。絶対」 「結構合うってあれ。食べてみろよ」 「罰ゲームだろ」 母さんに言ったときも、姉ちゃんに言ったときもまずいでしょと海と同じ反応をされた。あの味がクセになるんだってと何回も熱弁したのだが誰の心にも響いてはくれない。 「でも、うまいし・・・」 「わかった、次見つけたら買ってくるから」 「ありがとう・・・」

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