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第147話

勢いよく風早にタックルする。よろけた風早が男の胸倉をパッと離した。眉間に皺をよせ、今にも人を殺しそうな顔をしていた風早が一瞬俺の方を見て頬を緩める。 「ひ、ひぃぃっ」 尻もちをついた男は俺の方を見るなり情けない悲鳴を上げて坂を駆けていく。 「ま、待ってっ」 置いてきぼりを食らったもう一人も慌てて男を追いかけて行った。風早が逃げんなっ、と走ろうとしたので俺は風早の腕を掴んで止めた。 「か、ぜはや・・・。いいよ、俺もう怒ってないから」 きっと風早は俺のことを想って、してくれたことだ。それについては何も言わないようにしよう。今は風早に会えただけで充分。そう思っていたらポタリ、と暖かい雫が俺の手に落ちる。なんだろうと思って見上げると涙を流す風早の姿があった。 「俺、今、どんな顔してる・・・」 「え、え、か、悲しそう・・・な顔?」 「さ、さちぃ・・・」 ひっくひっくと嗚咽を漏らしながら風早が俺を抱きしめる。肩が風早の涙で濡れていくのを感じた。 「なんだよ・・・」 どうしてこうなっているのか、俺には理解できなくて?マークで頭をいっぱいにしていたら風早が小さい声でつぶやいた。 「俺、幸を傷つけた人、許せなくて・・・、俺、幸の傷ついてる姿、見てられなくてこんなところ幸に見られたくなかった。失望されちゃう、俺のこと、嫌いになった?」 「なんで、俺がお前のこと嫌いになるんだよ・・・」 「だって、だって、俺、怖いでしょ、ねぇ」 確かに、さっきまでの風早はぞっとする顔をしていたが今は甘える赤ちゃんのようだ。ギャップがものすごいが、風早らしいといえば風早らしい。 「怖くねぇよ、別に」 おずおずと抱きしめる腕を緩め、俺の顔をじっと見つめる風早の顔は涙でぐちゃぐちゃだった。なんか、鼻水出てるし。きたねぇ。 「ほんとに?ほんとにほんと?」 「怖いというか、汚い」 「ひどいぃぃぃっ」 うあぁぁぁとまた泣き出した風早におろおろしていたら風早がずびっと鼻をすすって涙を拭いた。鼻の先が真っ赤になっているし、目の周りも少し腫れているので泣いたのがバレバレだ。この顔をさっきの二人に見せたら驚かれるだろうなぁ、と思ったらなんだか笑いがこみあげてきて笑ってしまった。 「なんで笑うの」 「・・・お前に会えたからだよ」 「あぁ、もう好きっ!好きっ!!!っていうか、幸出てきて平気なのっ!!??まだ入院中でしょっ!?」 「まぁ、多分?」 「なにそれっ!!早く、帰らないとっ!!上着もちゃんと着てっ!」 焦った様子の風早が面白くてまた笑っていると今度はもぉ、と睨まれた。でも睨む風早の顔が真っ赤なのもおもしろい。 「なんで、連絡してくれなかったんだよ」 ぽつりとそう言ったら風早が口を曲げた。言えないってことかよ、人が折角心配したのに。 たっぷり沈黙してから風早が曲げた口を開く。 「・・・、見られたくなかったから」 「何をだよ」 「顔」 「顔・・・?」 首を傾げると、風早がまた口を曲げた。なんだよ、なんだよ。 「怖いって、言われたから・・・」 「なんだそれ」 「俺にとっては死活問題なのっ!!だって、だってっ!怖いって、怖いってことだよ?」 「へぇ」 「もおおおお!わかってよ!俺は必死だったのっ!どうやっても眉間にこう皺が寄っちゃうというか、なんか殺人鬼みたいな顔になっちゃってさ、どうにもできなくて・・・」 それだけ心配だったってことだよ、と風早は言う。その言葉で俺はなんだか連絡をくれなかったこと、見舞いに来なかったことがどうでもよくなった。

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