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第150話

「えと、普通に入って平気?ちゃんと許可とって・・・、るわけないよね」 病院の入り口の近くまで俺を難なく抱えた風早が言う。 「ま、まぁ、な」 こんな時間に外出許可なんて取れるわけない。いくら治ったと言ってもまだ完治したわけじゃないのだ。 「うーん、裏口は暗証番号で鍵かかってるし」 「まぁ、ってよく知ってんな」 「俺も前ここで一日入院した時確認したんだよ、幸に会いに行きたくて」 幸も確認したの?と聞かれて頷いたらお揃いだね、と風早が笑った。 「へ、変装は?」 幸い、俺は帽子を被っているし包帯も見えない。受付の看護師も俺の担当の人じゃないのでもしかしたら簡単な変装で欺けるかもしれない。 「俺の上着貸してあげる、幸の貸してよ」 「おう」 袖が余ってぶかぶかだ。そんなに体格差があるとは思わないけどなぁ、と風早のことを見ていたら目が合った。 「なに?どうしたの?」 「なんでもねぇよ」 ちなみにちらりと見えたが、俺の服じゃ少し小さかったみたいだ。なんか、腕が出てる。ピチピチってほどでもないが、他人が見たらもうちょっと大きいサイズはなかったのかなぁ、となるくらい。 「あ、幸、今いけるんじゃない?受付の人奥に行ったみたいだよ」 「そうだな」 「なんでそんな不機嫌なの?ってあーーー、かわいい。俺の服ちょっと大きい?ごめんね?」 「うるせぇ」 俺と久しぶりに会えた風早が浮かれているのがこっちにまで伝わってくる。浮かれた気持ちっていうのはウィルス並みに感染するものだ。 「ほら、行こ」 腕を引っ張られて俺はヨロヨロと歩き出した。さすがに抱きかかえられたまま入るのは目立つと風早も思ったのだろう。 キィ、とまた軋んだ音がしてドアが開く。受付には誰もおらず、俺と風早は小走りで階段まで向かった。 「は、はぁ、はぁ・・・」 「大丈夫・・・?看護師もこっちには気づいてないみたい。幸の病室って三階だったよね」 「え、あぁ、うん。なんで知って、」 「何回か来たんだよ、でも顔見られたくなかったから幸が寝てるときにね」 「・・・ふぅん」 風早が手を貸してくれて、俺はふらつきながら階段を上る。何度かおぶろうか?と言われたが頑なに俺は首を振った。 やっとのことで病室について、二人ベッドに腰かける。 「ここ、俺が前入院してた病室の隣なんだよね」 「覚えてないな」 「俺、幸に告白されたときのことまだ覚えてるよ」 「・・・、忘れてくれ」 あの時は必死だった。風早が怪我したって、入院したという事実を受け入れられず確かめるため、己の気持ちを確かめるために病室を開けたのだ。 「幸から貰った幸せで、幸せのおにぎり作れるよって言ったんだよ俺」 「それは、覚えてる」 「な、なんでっ」 「あほらしかったから」 「ひどいなぁ・・・、今も作れるのに」 おにぎりを作るジェスチャーをしながら不服そうに俺を見つめる風早。雲間から月の光が風早の瞳を揺らした。お前が変なこと言うから俺も思い出してきたよ。 カーテンが風でなびいて少し寒い空気が室内に吹く。見たことある、この景色。あの日の記憶が、感情が鮮明に思い出される。 風早が、小さく口を開いた。 「俺も幸が好き、愛してる・・・」 じぃ、と見つめられて俺は一瞬何を言われたのかわからなかった。 「って、俺が言ったのは覚えてる?」 「忘れるわけないだろ・・・ばか」

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