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第5話
ドアの向こうにいたのは俺の想像していた人とは全く違った。声質からもっと華奢な可愛らしい男の子を想像していたのだが、それは全くの間違いだったようだ。
身長は俺よりもうんとずっとあって、髪の毛は綺麗な茶髪。鼻筋もすっと整っていて、所謂イケメンってやつだ。
そんなキラキラと効果音が鳴りそうな男の前で股間をさらけ出し、あまつさえシャツまで捲りあげてしまっている俺・・・。
「こんなとこでオナるなんて、見かけによらずエッチだね?」
いきなり声のトーンが低くなった。男はそのままトイレに入り込み、鍵を閉める。
「ちょっ、何してっ」
押し返そうと、男の腕をつかんだがすぐに払われてしまう。
「えーだってさ、こんな可愛い子いたらほっとけないでしょ?俺、実はバイっていうか~」
なんてことなくそう呟く男に、俺は目を瞬かせる。
「バイ・・・?」
「そ、男でも女でもいけるよ・・・ってそんなに驚くこと!?」
「驚くっていうか、そんなの見ず知らずの俺に言っても大丈夫なのか・・・?」
バイであることと乳首が感じることは随分かけ離れているし、似ているなんて微塵も思っていないけれど、秘密にしておきたい話題としては一緒な気がした。
「別に俺バイなこと悲観してないからね、悪い事だとも思ってないし。それよりも俺はこんなかわいい子がここで何してたかの方が気になるなぁ?」
ぺろり、と舌なめずりをした男は俺の腕を掴んで、男の方にぐっと引き寄せられた。
「べっ、つに何も・・・」
有無も言わさず引き寄せられた俺は、何が何だか訳がわからなくなっていて、恥ずかしさと怖さで感情がごっちゃ混ぜになる。
ぎゅっと男に抱き付かれて、俺はひっと声をあげると男は少し寂しそうな顔をした。
「そんなに怖がらなくても・・・」
初めて会った人に、こんなことされて怖くない人なんているのだろうか。
大きな体に、何も抵抗できずにいると、いきなり唇に柔らかいものを感じた。
「っんんん!?!?」
抱き付かれているのは百歩譲ったとして、キスっ!?しかも、俺のファーストキス・・・。
慌てて男の胸板を押すが、びくともしない。
「かーわいい、初めてだったんだ?」
そんな俺の様子を見てか、男が顔を綻ばせた。図星をつかれて、ぷいと横を向いた俺に男がぷっと噴き出した。
「は、初めてで悪いかよ・・・」
まだ高二なのだ、初めてでもおかしくないと思う。
「悪くないよ、むしろ良い。ほんと可愛いね・・・ここも真っ赤だし」
そう言った男の目線が俺の乳首に刺さる。シャツのボタンを留めようとすると、男に止められた。
「待って、可哀想に・・・真っ赤だよ。大丈夫なの?」
またその声色。しかし、そんな声とは裏腹にぐにゅっといきなり乳首を掴まれて俺は快感に顔を歪めた。
「ひっ・・ぁっ」
男が俺の反応に口角を上げた。今朝見た姉ちゃんの顔とそっくりすぎる。狭い個室じゃ後ずさり一つ出来やしない。
「きもちいいんだ?男のくせに乳首感じるなんて、えっち」
耳朶を擽る甘ったるい声。くすぐったくて、目を閉じると鼻にちゅってまたキスをされた。
「ちょっ、またっ」
今度こそ男の腕から逃げてやろうとじたばた動くが、やはり全く男が動く気配はない。離せよって怒鳴ろうと口を開けたらホームルーム開始のチャイムが鳴り響いた。
「鳴っちゃったね、まぁいいや。サボろうよ」
男の声を無視して、手を伸ばしてトイレの鍵を開けようとするが、その手もまた払われてしまう。
「逃げたらバラしちゃうよ、オナってたことも、ここのことも」
乳首を指さされて、俺は悔しさに下唇を噛んだ。何がどうしたら一日に二度も同じような脅迫を受けることになるんだろう。
「いいの?」
何も言わない俺に、男は痺れを切らして俺の顎を掴んでまたキスをしてきた。今度は鼻じゃなくて、唇に。
「んっんんっ」
突然のことに、驚いた俺の口の端から垂れた涎を男がペロリと舐める。
「でも脅すのは可哀想だから、俺が良い事してあげる」
んふふ、と気持ち悪い変態みたいな笑い方をした男はとんでもないことを言い出した。
「俺が弄ってあげるよ」
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