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第7話
クラスではちょうど国語の授業が始まったところだった。担任になんて言い訳をしようかと教室のドアの前で悩んでいると、男は何も言わずそのまま教室にずんずんと入って行った。
「え、ちょっと!!!」
こいつはそもそも誰なのか?二年にこんな人・・・いたんだろうか?
俺も急いで追いかけて教室へと入る。
「あっ、お前!どこに行ってたんだ!!」
先生は、遅刻して教室に入ってきた男に怒鳴りつけた。男はなんの悪びれもなくすみませーん、と頭を下げる。
「この学校が広くて、迷ってました。そしたらこの子が案内してくれて~」
男がそう言いながら、俺の肩を掴んだ。いきなりのことに俺はもうあはは、と乾いた笑みしか出ない。
それにしてもよくこんな言い訳を思いついたものである。悪知恵だけは働く男のようだ。
「そうなのか?桐原」
不意に名前を呼ばれて、俺はびくっと肩を揺らした。
「えっ、あっはい・・・」
成績が落とされるのは癪なので、男の言った口実にのることにする。
「それは助かったよ、ありがとう桐原。もう座りなさい」
「は、はぁ・・・」
ペコリと頭を下げて俺は窓際の自分の席に座る。
結局男は何者なのだろうか・・・。先生とも知り合いみたいだし、もしかして新任の先生っ!?いや、それだと男が制服を着ているのはおかしい・・・。
だったら、結局誰なんだ?
自問自答しながら頬杖をついた。ふと男を見ると、目が合った。
「ねぇ、あの人イケメンじゃない?」
「わかる、モデルみたい・・・」
女子の歓声が聞こえてきて、俺はこいつさっきまで俺の乳首弄ってたぞーと心の中で言い返す。
って俺、なんでちょっと優越感を覚えてるんだっ!!
ないないない、ありえない。あれはちょっとした事故みたいなものだ。明日から絆創膏を貼ってくれば擦れてしまうことはなくなる。
「どうも、小日向風早です。よろしくね」
そう言って頭を下げた小日向という男はまた俺をじーっと見つめてきた。一体何なんだ、ぎっと睨んでやると小日向が俺に向かってピースしてきた。俺の方を見るなっ!!
「慣れないこともきっと多いだろうから、みんな小日向と仲良くするんだぞ」
先生の言葉に生徒、主に女子がはーいと返事をする。
そういえば俺の席、後ろが空いている。まさか、ないよな???
「じゃぁ、桐原の後ろが空いてるからそこ座ってくれ」
げっ、予想通りじゃないか。俺はこれからの高校生活に少し、いや大分不安が残る。
「やった、桐原くんの後ろっ」
嬉しそうに笑う小日向に女子の歓声がまた上がる。もう聞き飽きた。
「改めてよろしくね?桐原くん」
足早に俺の前に歩いてきた小日向がニヤニヤしながら言った。そんな小日向の足をガンガン蹴ってやる。
「やだぁ、さっちゃん小日向くんとどんな関係なの?」
前に座っていた幼馴染である伊吹楓が小日向と同じようにニヤニヤと笑みを浮かべて言った。
「な、なんでもねぇよっ!!こいつが勝手にっ!!」
どんな関係と言われてもさっきトイレで襲われましたなんて言えやしない。
「さっちゃんって言うの?やっば、可愛い」
「俺の名前は幸だっ!!さっちゃん言うなっ!!!」
楓は昔から姉ちゃんと一緒で俺のことをさっちゃんと呼ぶ。だが、小日向に呼ばれるのはどうも落ち着かない。
「ええーいいじゃん、さっちゃん。これからもよろしくね、さっちゃん?」
「お前とよろしくなんてしたくねぇ」
「ひどいなぁ、さっちゃんは」
むすっとした表情のまま小日向は後ろの席に座る。ちょんちょんと背中を突っつかれ、俺が振り向かないでいると小日向はこう言った。
「あんまり俺に冷たくしてると秘密言っちゃうよ?ねぇ、さっちゃん?」
こいつは悪魔だっ!!!!!
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