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第9話

「ねぇー、機嫌直してよ幸・・・」 あのあと、授業は散々だった。今はこの忌々しい小日向のせいで保健室に来ている。 何故そのようなことになったのかというと・・・。 「じゃぁ、次は桐原。この問題の答えは?」 数学の時間だった。小日向は毎時間当然のように俺の隣に座り、教科書を覗き込んでくる。 計算が苦手な俺が戸惑っていると、小日向が小声で答えを教えてくれた。 中々いい所もあるんじゃないか、と見直したその時。 またもや小日向の手が俺の胸に伸びてきたので、それを払ってやる。何度目だ、と呟くと答え教えてあげたじゃん、と返ってきた。 「えっと・・・んっ」 伸びてきた小日向のもう片方の手に気づいていなかった俺は、さわっとズボンの上から股間を撫でられて思わず変な声が出た.。 まただ、クラスメイトの目線を感じる。いい加減もうやめてくれ・・・。 俺の心の叫びは小日向に聞こえている訳もなく、さっきよりも強く撫でられる。俺の反応を楽しんでいるようでむかつく。 「さんじゅうっ、にっ・・・」 答えは何とか言えたのだが、先生のはちゃんと聞こえていなかったらしい。 「なんだって?もう一回言ってくれるか?」 そう言われ、俺は漏れる声をぐっと抑えて今度はちゃんとはっきりと言おうと息を吸い込んだのに。 「はぁっ、ほんとにやめろってっ」 手を止めてくれない小日向に、意識を向けようとしないでいても勝手に身体が感じてしまう。 「さっちゃん大丈夫?」 心配そうに振り返った楓がそう問うたが、俺は頷くだけで精一杯だった。 「でも顔真っ赤・・・」 楓が俺の顔を覗き込んできて、俺は咄嗟に俯く。きゅっ、と先を握られて俺は背中を丸めて小さく喘いだ。目尻に溜まった涙のせいで視界が霞む。 「ほんとだ、顔赤いね。具合悪いなら保健室行く?」 何も言わなかった小日向が急に口を開いた。わざとらしい心配顔に呆れるが、それどころじゃなくて俺はただただ頷いた。 「なんだ、具合が悪かったのか。悪いが保健室に連れてってやってくれ、東階段一階にあるから」 先生も俺の様子をおかしいと思ったようだ。 小日向が俺のことを支えながら、保健室に行こうと立ち上がろうとした。だが、立ち上がろうにも勃っているのがバレてしまうし、そもそも腰が抜けているせいで上手く力が入らない。戸惑っていると、小日向が耳元で囁いた。 「立てない?」 コクコクと頷くと俺はその刹那ふわっとした浮遊感に突然襲われて思わずぎゅっと目を瞑った。 またもやクラスメイト(主に女子)の歓声が聞こえてきて恐る恐る目を開くと何故か小日向にお姫様抱っこされていた。 「・・・へ?」 小日向と目が合って、俺はあんぐりと口を開けた。 「大人しくしてて」 「ぇ、あ、うん・・・」 何だかもうどうにでもなってしまえ、という気分だった。小日向の顔が見れなくて、ふいと顔を背けると海の心配そうな顔が見えた。ついでに楓の顔も。 あとで海からの質問攻めも覚悟しないといけないな、なんて他人事のようにそう思った。 海と目が合うと急にこの年にもなってお姫様抱っこされていることが急に恥ずかしくなって、思わず小日向の腕に顔をうずめた。すると、小日向が俺を抱く強さが少し増したように感じる。重いんだろうなぁ・・・。 こうして俺は非常に不本意ながら保健室に来ているのであった。

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