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第10話
そこまで思い出して、顔を赤くした俺を小日向が楽しそうに見つめている。
「お前ら、俺はちょっと会議に出てくるから気が済んだら教室に戻れよ」
保険の先生である、横井先生がひょっこりと顔を出して言った。彼は俺がお姫様抱っこされて保健室に入った時、特に何も言わずにベッドを差し出してくれたのだ。
何だかよくわからないが、小日向に弱みを握られているらしかった。
「はーい、眠り姫の王子様~」
「おいっ、それは言わない約束だろっ!!!」
保健室を出て行こうとした先生が慌てて戻ってきて、小日向にぺこぺこと頭を下げる。
「おねがいだからっ、俺は別にバレてもいいがあいつがバレたらやばいだろっ」
「はいはい、幸以外には言わないから大丈夫」
「言うつもりなのかっ!!幸くん?お願いだからこいつから何か聞いても何も聞かなかったことにしてくれよ?」
必死な先生の請いに俺は何が何だか分からず戸惑いながら小さく頷いた。
「幸は俺と違っていい子だから言いふらしたりしないよ、王子様?」
小日向がそう言って俺の頭を優しく撫でた。俺のどこを見ていい子だと思ったんだよ・・・。
「そのあだ名で呼ぶのやめてくれないかなっ!?」
「王子様会議遅れちゃうよ」
「誰のせいだと思ってるんだっもうっ」
プリプリと怒りながら、横井先生が保健室を出ていく。
「横井先生ね、今生徒と付き合ってるんだよ。しかも、俺のいとこで男」
さらっと言われた言葉に俺は思わず目を剥いた。あの先生が、すっごく美人な妻がいるって噂になっていた先生が、実は生徒と・・・しかも男と付き合っている!?
「俺のいとこね、鹿山三保っていうんだけど、貧血気味でね。一年前の入学式に貧血で倒れちゃったことがあってそれ以降よく倒れては保健室に運ばれてたの。入学式で三保をお姫様抱っこして保健室まで連れてったのがあの横井先生。だからあだ名が眠り姫の王子様」
「へ、へぇ・・・」
「つまり、俺はあの王子の弱みを握ってるから保健室をどう使おうとしても勝手ってことで・・・」
そろそろと伸びてきた見慣れた小日向の手。またか、と俺は拗ねたふりをして小日向に背を向けて保健室のベッドに寝転がった。防衛のために、シーツを被って近くの枕を抱きしめる。
「あれま、眠い?」
「・・・眠くない」
「じゃぁ拗ねた?」
「拗ねてない」
「触ったら怒る?」
「怒るしお前の眉毛全部白くなるように呪ってやる」
「おお、こわ」
小日向も同じようにベッドに寝転がってきた。シーツ越しに感じる、小日向の熱。
後ろから抱き付かれるような気配がして、俺は逃げるようにベッドの端へと寄った。
「俺で遊ぶのはそんなに楽しいか?」
ぼそっと呟いた一言は、ちゃんと小日向に届いただろうか。
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