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第11話

「え?遊んでないよ、別に」 「じゃ、じゃぁなんでお前・・・」 そこまで言って俺は下唇を噛んだ。 遊んでいるなら、もうやめてほしい。こんなのもううんざりだ。 「どうしちゃったの・・・?」 泣きそうな声の俺を小日向が心配そうに問いかける。 「だって、人前でお姫様抱っことか・・・変なところ触ったりとか・・・」 俺が言うと、小日向が耳元でぶっと噴き出した。 「やだった?気持ちよかったでしょ?」 そんな小日向の態度に俺は声を荒げた。 「はぁ!?嫌に決まってんだろっ!!なんなんだよっお前!あんな恥ずかしいこと・・・」 「恥ずかしいだけ?」 「・・・他に何があるんだよ・・・」 少し強引にシーツ越しに腕を掴まれて、気づいたら小日向の腕の中にいた。息が苦しくなって、シーツから顔を出すと小日向の腕が肩に乗せられる。 「男だから嫌だった、とかないの?」 「・・・そんなの思ってる暇ねぇよ」 ごそごそと小日向が俺の首元に顔をうずめた。鼻息が少しこそばゆい。 「可愛い、嬉しい。気持ち悪いって言われたら俺死んじゃう」 「なんでだよ」 くるっと肩を掴まれて、体の向きを変えさせられた。小日向と目が合う。 「俺の一目惚れ、なんだけど」 「わ、け・・・わかんね・・・」 顔中に熱が集まるのがわかった。目を逸らしたくても、小日向の真っすぐな瞳に捕まってできない。 「わかってくれないと困るんだけど・・・」 小日向も恥ずかしいのか、どんどん語尾が小さくなっていく。さっきまで威勢の良かった小日向はどこへ行ってしまったのか。不本意なことに俺は少しそんな小日向を可愛いと思ってしまった。 「一目惚れってお前あんな俺を見てよく言えるよな」 初対面はトイレ。しかも、俺は白濁に濡れた下半身丸出しだったはずだ。俺だったらきっと頭のおかしい変態野郎として脳に記憶されているのだろう。 「俺可愛い子が好きなの、だから幸が好きなの」 「何その方程式」 「幸イコール可愛いなのっ」 「俺は可愛くねぇ!!!」 またぱちりと目が合って、目を閉じそうになったのをじっと我慢する。小日向も同じく我慢したまま、二人で暫くの間無言で見つめ合っていた。 「ふっ、ははっ・・・」 耐えきれなくなって、初めに吹き出したのは俺。すると、小日向も耐えかねたのか俺が笑ったのをきっかけに吹き出した。 「もうっ、幸の我慢してる顔が面白くて・・・。このやろっ」 ぐしゃぐしゃと髪の毛を撫でられて、くすぐったくて思わずさっきまで我慢して開けていた目を瞑った。 「んー、ちょっとこひなっんんっ!?」 髪の毛を触っている手を払おうと、俺が手を伸ばすと唇に何か温かいものが触れる。 あ、これキスだ。 どうせまた俺の反応が楽しくてやっているんだろうなーとなるべく動揺しないように強気でいると、口の中に舌が絡みこんできた。驚きで目を開けるとまた小日向と目が合う。 「んっ、こひっ・・・なたぁっ・・・」 終いにぺろりと俺の唇を舐めた小日向は名残惜しそうに俺の頬を撫でる。くすぐったくて肩を震わせるとまた可愛いと呟かれた。 「やば、また盛っちゃいそうになった・・・。俺もう今日は何もしない、ほんとほんと」 頬を少し赤らめて、目を逸らした小日向は両手を上げて言った。 「盛るって・・・」 呆れた俺はごろんと寝返って、小日向とは反対を向く。ぼんやりと保健室の扉を見つめると、つんとした薬品の香りが鼻を掠めた。慣れない匂いだ。 「幸、幸・・・ねぇってば~」 「さぁぁちぃぃ、さっちゃん~」 ちょんちょん、と背中を突かれるが無視してやると悲しそうな小日向の声が聞こえた。 「幸ってば、幸~、あれ?寝ちゃった?」 ふてくされて寝たふりをしていたら、いつの間にか寝入ってしまっていたようだ。

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