12 / 155

第12話

目が覚めると、そこは保健室ではなかった。しかも、自分の部屋。驚いて、飛び上がると目に入った壁時計は九時過ぎを指していた。 服は制服ではなく、むすっとした表情をした猫のシャツを着ていて、絆創膏もきっちりと貼ってある。一体誰が着替えさせて、ここまで運んだのだろうか? 下の階から姉ちゃんの大きな笑い声が聞こえてくる。そろりとベッドから降りて、自分の部屋から出ると小日向の声も聞こえてきた。 「あー、じゃぁさっちゃんの秘密知っちゃったんだ。実は私もなんだけど」 「そうなんですよね、可愛いですけど」 「そうねぇ、感じすぎちゃって絆創膏貼ってるのは我が弟ながら可愛いと思うわ。一回私が高校の時に来てたセーラー服をさっちゃんに無理やり着せたことがあるんだけど・・・写真見る?」 「見ます見ます!!」 なんの会話だっ!!! だだだっと階段を下りて、リビングで談笑していた姉ちゃんと小日向の前に立ちはだかった。 「ちょっと何やってんだっ!!」 怒る俺に、姉ちゃんは動じもせずただ笑う。 「あら、さっちゃん起きたの?」 「起きたの、じゃねぇ!!つーか、その写真早く捨てろよっ!!」 姉ちゃんの手にあるのは消し去りたい記憶でもある、姉ちゃんのセーラー服を着させられた時の写真。元は携帯で撮った写真だが、姉ちゃんが記念だからとわざわざ印刷までしたのだ。俺は反対したのに。 「えー、でも可愛いよ?さっちゃん?」 「お前はさっちゃんって言うなっ!っていうか、見るなっ!!!」 姉ちゃんの手にある写真を見ようと覗き込んだ小日向を止めようとするが、俺の努力もむなしく・・・。 「あんまり私に歯向かうなら、さっちゃんの秘密バラしちゃうよ?」 「俺も一応幸の秘密、握ってるんだけど?」 結局は姉ちゃんと小日向のこの言葉に俺は負けてしまうのだ。 「それに俺、ご丁寧に幸の絆創膏まで貼ってあげたんだよ?」 やっぱり、この絆創膏は・・・。 「お前の仕業かっ!!!」 「まぁ俺は絆創膏貼って、服を着替えさせただけだよ。横井先生がここまで送ってくれたの」 どういうことだ・・・っ!横井先生がそこまで? 「横井先生いい人だったわね、私のクラスじゃ超人気だったわ~」 「あ、やっぱりそうなんですか?ホモですけどね」 「そうなのよねぇ、ホモなのが難点だけど」 姉ちゃんと小日向はすっかり打ち解けたようで、二人で仲良く話している。俺だけ置いてきぼりを食らったみたいで少し寂しい。 「そうだ、さっちゃん風早くん送ってきたら?もう遅いし」 しかも、姉ちゃん風早くんなんて名前で呼んでるし。 「俺の家こっから近いんで大丈夫ですよ、幸も疲れてるみたいだし」 嫉妬ではない、でも俺の腹の中に渦巻いた感情はそれとよく似ている気がする。認めたくはないけど。 気づいたら、送ってやるっ!と大声で言ってしまっていた。

ともだちにシェアしよう!