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第14話

「幸、おはよう」 「ん、おはよう」 次の日、いつもと同じように海と学校へ向かう。今日も雲一つない青空だ。昨日と違うのは、俺がちゃんと絆創膏を貼っていて暑い暑いベストを着なくて済んでいることである。 姉ちゃんには風早と何があったのかもバレているようで、今日は絆創膏を貼っていけと姉ちゃんに釘を刺されたのだ。 「昨日・・・」 海がそう言いかけて、俺は思わず肩をびくりと震わせる。 そうだ、何だか全て丸く収まったかのように思えてそうではない。昨日俺が風早にお姫様抱っこされた時の海の顔を思い出すと頭が痛くなりそうである。 「昨日?な、なにかあったっけ!?」 動揺を悟られないように、しらばっくれようとしたが俺は案外嘘が苦手のようだ。海の疑惑の目からは逃れることは出来なさそうだ。 何て答えよう、と思案していると後ろから見知った声が聞こえてきた。 「幸~~~!!一緒に学校行こっ」 後ろから急に抱き付かれて、バランスを崩したところを支えられる。この大きさ、手、それに匂いはあいつの物だ。 「風早・・・」 「おはよ、幸」 「・・・おはよう」 顔を見るのが気恥ずかしくて、俺はなるべく空を見つめながら返事する。また話がややこしくなりそうだ、と俺は一人頭を抱えた。 「名前を呼び合うくらいもう仲良くなったんだな」 冷たい海の声。まるで突き放すかのように低いその声に俺は思わず目を見張る。 「え・・・?」 「そうだよ、俺と幸はもう愛を誓った仲なの」 ハートマークが付きそうなくらい甘い声でそう答えた風早の腹を殴ってやると耳元で苦しそうな声が聞こえた。 「ややこしくなるからお前は黙ってろっ!!っていうか、俺と風早はそういうんじゃないっていうか・・・、名前だってこいつが勝手にっ!!」 「えっ、俺が幸の姉ちゃんに名前で呼ばれてるの見てて幸嫌そうな顔してたじゃんっ!!」 「してねぇっ!!」 二人で言い合いをしていると、海の姿が見えなくなった。もう校門を潜っているようで、俺はすぐに走って海の隣へ戻る。 「いいの?俺なんかより小日向置いといて」 「・・・だからそういうんじゃないってば」 「隠さなくていいよ別に」 海の足が早まる。俺はついて行くのに必死で、海の顔を見れなかった。 「俺、キスしてるの見ちゃったし」 だから、海がどんな顔でこの言葉を発したのか、俺にはわからなかった。海は一言だけ言うと、そのまま一人で下駄箱へと向かって行ってしまう。俺は衝撃の一言に思わず立ち止まってしまった。 「・・・え?」 「ちょっと~、幸!!早すぎるっ!」 海の姿が見えなくなってから風早が後ろから現れる。 「・・・?幸どうしたの?」 立ち尽くして動かない俺を風早がちょんちょんと突いた。 「海が・・・ってどう考えてもお前のせいだろ!お前が変なこと言うから!!」 「俺のせい?」 きょとん、とした顔を向ける風早にさっきの言った言葉を忘れたのか、と怒鳴ってやりたかったがやめた。ここは人が多い。ほら、きっと女子が・・・。 「あっ!小日向くんっ!!おはよう!!」 「小日向くんだっ!!彼のことよねっ!?イケメン転校生って!」 何人か女子が周りに集まってきて、そそくさと逃げようとすると風早に腕を掴まれる。 「ちょっと幸、俺幸と話してるんだけど」 「なんでだよっ、女の子と話してやれよっ!俺はもう行くからなっ!」 ぶん、と腕を振り払うと案外風早は掴んだ手をすぐに離してくれた。思わず風早の方を向くと、まただ、あの顔。少し寂しそうな風早の顔。あの顔にはどうも俺は弱いらしい。 が、ぶんぶんと首を横に振って俺は教室へと向かった。

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