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【短編】白昼デート
2018/03/31
お題
・年の差
・ショッピング
・もしも、あの時
48分
日曜日のショッピングモールはたくさんの買い物客でにぎわっていた。
小さな子供を連れたファミリー、若いカップル。
「はぁ…」
インスタ映えがウリのカフェで、ゴテゴテに生クリームが盛られたカフェラテを前に、ミヤビは何度もため息をついていた。
ダボっとしたグレーのパーカーに、タイトな黒のスキニーが細身の体によく似合っている。顔は少し女性っぽい、キツめの猫顔。
1人で家にいるのが居た堪れずにこうして特に用もなくショッピングモールに来てみたが、ここもたいがい居た堪れない。
マサキと一緒だったら入れない店、と思って選んだが、よく考えたらマサキとはどこの店も一緒に入れないのだった。後から気づいて、1人なのに鼻で笑ってしまい、隣の席の人がギョッとしてこちらを見てきた。
愛する愛人、何様俺様マサキ様は只今家族サービス中。単身赴任先のパパの所へ、娘がママと遊びに来てるんだとか。1週間ぐらい滞在するそうで、もちろんその間は会えない。当然連絡を取り合うこともない。
あと、2日。
早く時間が過ぎるのを、祈るような気持ちで待ち続けている。
通り過ぎる、何組もの若いカップルを見て思う。
あんな風に、白昼堂々デートなんて、マサキと付き合ってる限り、ないんだな。
腕組んだりしてさ。ふん。羨ましくなんか、ないからな。
あんなオッサンと腕組んで歩いたら、画的にキツイだろうし。
第一そう、オッサンなんよな、アイツは。
だけど、ほぼヤるしかやることがない2人の間には、一回りの年の差など大した問題ではなかった。
いつのまにやら使い捨てのカップが空になっていて、もう出るか、と席を立つ。上の階のレンタルDVDショップでも寄って帰ろうと、カップを捨てていると、スマホが振動を始めた。
なぜこの手が離せないタイミングで、と、とりあえずカップを捨て、トレイを置き場に戻し、ようやくスマホをポケットから取り出したら…
予想外の相手に驚きながら通話ボタンを押す。
「あれ?」
「相変わらず間抜けな声だな」
相手は他でもない、待ち人だ。
「あと2日じゃなかったっけ」
「チビの習い事があるから早めに帰るって、今新幹線見送ってきた」
予定より早く声が聞けたのは、素直に嬉しい。
「今家か?」
「いや、ちょっと、買い物」
「どこで」
ミヤビがショッピングモールの名前を告げると
「これから向かう」
と言い残して通話終了表示。
迎えにきてくれるってこと?
白昼デート、実現フラグ?
ミヤビはにわかに落ち着かなくなった。こんな展開になるとは思っていなかったから、髪も服もテキトーだ。無意味に髪をなで付ける。
待ち合わせ場所に決めた書店で立ち読みしていると、マサキが現れた。遠目からでもすぐにわかった。今までにないほど、心が高ぶっていく。でも、こちらから手を振ってやるのもなんだかシャクだ、と思い、あえて気づかないふりをして雑誌に視線を落とした。
マサキはミヤビに近づくなり、尻を掴んだ。
「セクハラ!」
噛みつかんばかりにミヤビが抗議する。
「行くぞ」
「どこによ」
「メシ。腹減った」
一緒に外食なんかもできちゃうんですか?!
ミヤビは何故だか緊張してきた。
「いいのかよ、こんな人目につくとこで、こんな」
「こんなってどんなよ。そりゃ男2人で買い物に来ることもあるでしょうよ。あ、ベタベタして来るなよ」
「し・ね・え・わ!」
もしも、あの時、綺麗さっぱり別れていたら。
もしも、あの時、大阪にはついて行かない、と言っていたら。
終わらせる機会は何度もあったのに、今もこうして一緒にいる。
ついてこいと言われたってことは、そばにいていいってことだと思っていいんだよな?
「トンカツでいいか?」
飲食店が並ぶフロアで、少し前を歩いていたマサキが振り返る。
「アラフォーなのに元気だな」
意地悪な顔でミヤビが悪態を吐くと
「そりゃ、元気つけとかないと、なぁ?」
ニヤリと笑いかけられて、ミヤビは真っ赤になった。
トンカツ屋に入り、向かい合って座る。
白昼デート、一緒に外食。
ここまででけっこう、十二分に幸せなんですけどね…
ミヤビはにやけそうになるのを抑え、店員を呼んだ。
「カツ丼大盛り、すりおろしにんにく乗せで」
「おいやめろ…」
悩ましい吐息に混ざった悪臭が、2人を包む…。
そんな数時間後を想像して、マサキは憂鬱になった。
【終】
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