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それはまるで夢のような 3
マサキの運転する車の助手席に乗れるなんて。
マサキ、運転できるんだな。
ベタだけど、カッコいいよな、運転してるとこって…
全然二枚目でもないのに、普段の二割増しでかっこいい。
「見惚れてんなって」
前を見たまま憎たらしいこと言いやがった。
「だからー、こんなおっさんのどこに見惚れりゃいいってんだよ」
嘘です。見惚れてました。
チッ、と舌打ちする音が聞こえて、タバコに火をつけた。
「相変わらず口減らねえな」
ボソッと言われた。
うん。減らねーよ。
油断したらダダ漏れになる好き好きオーラをこぼさないよう、こちとら必死で虚勢張ってんですよ。
あくまで、愛人、ですから。
最近ではもうかなりバレてるみたいだけどね…。
でも、だからって開き直るのは、また違うと思うんだ。
「神戸線乗って六甲とか行くか、湾岸線乗って和歌山の方行くか」
選択を急かす圧がかけられている。
そんなこと言われても、こっちの地理なんか…
和歌山?
和歌山って確か…
「パンダ!」
「は?」
「和歌山行こ!パンダ見たい」
上野で誕生するたび全国区でニュースになるパンダ、確か和歌山ではポンポン生まれてるらしいじゃん。見たい見たい、ほわほわの赤ちゃんいるかなあ。
「…時間考えろよ」
ぶわぁ、と煙が充満する。
ため息、つきましたね?
つまり、呆れてますね?
そっか。確かにもう閉園してるか。
明日は午後一新大阪って言ってたから、明日も無理か。
なーんだ。
じゃあ別に、他に行きたいとこなんかないや。
口を尖らせて黙り込んでたら、路肩に寄って車が停まった。
「行きたくねえならこれから家まで送る」
…うっ。
無言で首をイヤイヤと小刻みに振る。
違うよ、行きたい。言ってみればどこだっていいんだ、マサキとだったら、さ…
「…わかんねーんだよ、俺こっち全然知らねーんだから!そのぐらいわかんね?」
うーん、相変わらず頭で思ってることと口に出る言葉がちぐはぐだ。
「あ、とりあえず、腹減った…」
わ静かな車の中で、今にも腹の虫が鳴りそうで気が気でなかったんだった。
そういえば、制服のまんまだし。
ホントこのおっさん、いっつもムチャブリ。
もっと早く言っといてくれたら、行きたいとこだって調べといたのにさ。
…と、あれこれ文句つけてはみても。
好きなんだなぁ。
好きなんだよ。
初めて本気で、好きになった人。
ヤニ臭くて愛想なしで優しさのかけらもない既婚の中年オヤジが。
俺、どんだけシュミ悪いんだろ…
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