14 / 25
それはまるで夢のような 5
「あっ!」
シートにだらしなく持たれてた俺は、前のめりになって叫んだ。
はるか遠くの海上に、花火が見えたんだ。
遠いから、そんなにでっかくは見えないけど、視界を遮るものはなくて。
「み、見た?花火!」
コーフン気味にマサキに声をかけるけど、相変わらず知らん、ってつれない一言が返ってきただけ。
一瞬だったし見えなかったのか。もったいね。
じきに次のサービスエリアの表示が見えてきて、そっちの方に車線変更した。
あ、そろそろちゃんと休憩するんだな。またコーヒーでも買ってこようか。
車を停め、ドアを開けようとした瞬間、眼前に花火が広がった。
「うわあ!」
なんとも子どもみたいな歓声を上げてしまった。
あちこちカーブしながらだからわからなくなってたけど、さっき花火が上がった場所の真正面なんだ、ここ。
マサキは、わかっててここに停めてくれたのかな?
…訊いても多分ちゃんと答えてくれなさそうだから、黙っとこ。
俺が目を輝かせて身を乗り出して花火を見つめていると、マサキは車から降りてってしまったけど、俺は花火を見るのに夢中だった。
打ち上げ花火を見たのなんて、何年ぶりだろ?
子どもの時以来かも。
付き合ってた相手と行ったり、しなかったなあ。
今日が、初めて。
戻ってきたマサキはやっぱりコーヒーとかタバコとか買い込んできたようで。しまった買いに行くの忘れてたや。
極悪なほどに強力なメンソールのタブレットも買ってる。よっぽどお疲れだな、早くちゃんと休憩させないと…
「で、今日はどっちがいい」
はっ?!急になんの問いかけでしょうか。
いつも主語がないんですよね!
「あの、どっち、とは」
「ご休憩か車ん中か」
ん?話が見えません…
察する能力とか持ち合わせてないので、きちんと一から十まで言ってもらえませんかね?
…という俺の本音を察してくれたのか、マサキが口を開いた。
「お前、さっきからご休憩って言ってる意味、わかってる?」
「そりゃもちろん、運転しっぱなしだからちゃんとここらでゆっくり休んで…」
マサキは俺から顔を背けて深いため息を吐いた。
「…やっぱりか」
なんて言って。
「ちょ、何がやっぱりなんだよ、全然話見えてこな」
運転席に身を乗り出して抗議してたら捕獲された。
やべー、抱きしめられてるだけなのに超ドキドキする。何で?車ん中だから?
自分のドキドキの合間に、打ち上げ花火の音が混ざる。
そっと、こわごわ、マサキにも腕を回す。
ともだちにシェアしよう!