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ザッハトルテと馬の蹄 2

食後はソファに並んで座るのが最近できた流れ。 「今日何してたんだよ」 何となく、きいてみたかった。 「別に。寝てた」 こいつの趣味が全然わからないのは、もしかしたらこいつが無趣味だからなんじゃないか? 「お前は」 珍しく話題を振ってきたぞ! 「俺は一日中ケーキとチキ、ん」 俺の唇をマサキがべろんと舐め上げた。 「チョコ塗れなんだよ。家ん中じゅう甘ったるい匂いしてるし」 あれ?文句言われてんのこれ?ザッハトルテ完食しといて? ていうかそんなとこチョコついてねーだろ!ってとこまで舐めやがって。ほっぺはまだわかるけど耳とか…ついてねーだろ… 「んんっ」 クッソ変な声出ちまったじゃねーか! 顔から火が出そうになってるとマサキは満足そうにニヤニヤしてやがる。マジでシュミ悪いヤツ…。 そっからゴングは鳴らされて、まあ一戦交えました、ええ交えました。今夜も完敗でした。いいようにヒィヒィ啼かされてイカされて終わりですよハイ。 なんでそんなキレてんのかって?…なんでだろな。 なんか、悔しいのかな。俺ばっかりマサキにコントロールされてんのがさ。俺だってたまにはマサキの余裕なくしてやりたいのにさ。 「これ、やるよ」 そう言えばウチに来た時持っていたコンビニの袋の中から何か取り出してこっちへ投げて来た。キャッチして見てみたら、メリークリスマス!って書いたしょーもないコーンスナックだった。たぶん二、三百円するかしないかぐらいの。 「ハッ、どこまでお子ちゃま扱いだよ。まあもらえるだけマシってか?」 ありったけの文句を浴びせながらもお菓子を美味しく完食した俺は、満腹なのと運動後の疲労とで、さっさと寝こけてしまった。 かなり深く長く眠ったような気がする。 目が覚めるとものすごくスッキリしていた。 思いっきり伸びをして、気づく。 隣にマサキはいない。 やっぱり泊まらずに帰ったんだ… 共に朝を迎えたことなんて片手でも余るぐらい。起きたら横にいてくれるの、すんげーシアワセ気分になれるんだよな。 あーあ、昨日の晩飯の片付け全然してねーや。今日は大掃除でもしよっかな。 えいやっと飛び起きてテーブルに向かうと、紙袋が一つ。マサキの忘れ物? 中身を見てみるとネックレスだった。 おいおい、嫁さんに買ったのに置いてっちゃったみたいな? まったく、そそっかしいなあ… マサキに電話する。 「なんか紙袋忘れてってんじゃん!誰かにプレゼントするモンなんだろこれ、そんな大事なモン忘れてってんじゃねーよ」 バーカバーカ、と続けそうになってそれはさすがに止めといた。 「…あー、そうだな。お前はそういうやつだな」 呆れたような?困ったような?そんな調子でマサキは言った。何のこと? 「一から十まで言わねえとわからんやつだった。それは、お前のだ」 言うなり電話は切れた。 ツーツー音を聞きながら、マサキの言葉を繰り返す。 …これが、俺の? 人のだと思ってたからあまりちゃんと見てなかったネックレスを、今度はきちんと出してよく見てみる。ちっさなちっさな馬のヒヅメの形をしたトップがついてる、超シンプルなシロモノ。 これ、を、俺に?マサキから? どうしよう、現実を受け入れられない。やっぱり返せとかって取りに来るんじゃ?それかどっかで拾ったやつとか? …んなわけないか。 できたら、一緒にいる時つけてほしかっ…て強欲!クリスマスプレゼントなんかもらえると思ってなかったのに。こっちはなんも用意してなかったのに。 チェーンが長いから服から見えることもない。仕事中もつけてられる。なんだかマサキに所有されてるような気にさせられる。うずうず。 あーやっぱり会ってる時に渡して欲しかった!どうしてくれんだよムラムラしてきちまったじゃねーかよー… 会いたいよう。 【おわり】

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