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7-ただいまのすけべ

「主任、お疲れ様でした!」 降りる駅が同じ部下と別れて由紀生は一人帰路についた。 今日はいつもよりちょっと早く帰れたかな。 カズ君、は、まだお仕事だろう。 今週はあんまり顔を合わせていない。 毎朝送り出してもらってはいるけれど、それくらいだ、夜は擦れ違ってばかり。 お互い忙しいから仕方ないけれど。 でもやっぱりちょっとさみしいかな。 駅前のコンビニで明日の朝食用に惣菜パンをいくつか、それと牛乳を買い、なかなか重たいコンビニ袋をがさごそ言わせて由紀生はマンションに到着した。 エレベーターに乗っている間、つい壁にもたれて「はぁー」なんてため息。 外見はいくら若くても中身は四十路、ほぼ毎日立て続く残業にお疲れのようだ。 我が家に着くと、通勤鞄を小脇に抱えてコンビニ袋を片腕に引っ掛け、財布から取り出した鍵でもたもた開錠。 カチャリとドアを開き、ほっと一息つきたくなる照明の明るさに出迎えられて目を丸くした。 あ、カズ君、帰ってきてる。 「た、ただいま」 声をかけたが返事はない。 それでも、息子がただ早めに帰宅していたことが嬉しくて自然と頬が緩んでしまう由紀生、相変わらず子離れ不可能、重度の息子依存症のようだ。 明日もお互い仕事だし、カズ君も疲れているだろうから、そんなに会話できないだろうけど。 お茶くらい淹れて、この間香典返しに頂いたお煎餅かじりながら、ちょっと話せないかな? 履き慣れた革靴をもぞもぞ脱いで、くるりと振り返り、コンビニ袋をがさごそ言わせてちゃんと揃えていたら。 真後ろで浴室に連なる洗面所のドアが開かれる気配。 あ、カズ君、お風呂に入ってたんだ。 「ただいま、カズ、く、ん」 振り返った由紀生の視界に飛び込んできたのは。 「オヤジ、おかえり」 数也の裸胸(※下はスウェットを履いています)がバーーーン。 湯上りでちょっと上気した、縋り甲斐に富んだ広い肩幅、自分より厚い胸板、くどくない程度に筋肉質な二の腕、けしからんレベルに引き締まった腰。 濡れた髪にタオルを引っ掛けて、前髪が目元にかかって、いつになく実年齢よりどこか幼く見える息子が。 目の前にやってきた。

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