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10-また父の日
今日は父の日。
数也にとって例年に違わず、クリスマスよりもお正月よりも重要な大イベントの日だ。
「カズ君が作ってくれる晩ごはん、楽しみにしてるね」
一ヶ月前から職場に有休申請していた数也は今夜由紀生に手料理を振る舞う予定だった。
買い物は済ませているし仕込みも完璧だ。
夕方前から準備を始めるつもりで、それまで、まったりのんびりらぶらぶに由紀生と過ごすことができる。
「お父さん、本当に手伝わなくていいの?」
午前中に掃除を済ませてダイニングテーブルに着いた由紀生はお茶を淹れて一息ついていた。
両頬杖を突いて「早く冷めないかなぁ」と淹れたばかりのお茶が冷めるのを心待ちにしている。
涼しげな薄手の襟シャツにハーパンを履いている姿は爽やかな好青年感だだ漏れで。
休日で一切手を入れていない髪は額にサラリとかかって。
仕事着のスーツと比べて肌の露出が多くて、日焼けしていない手足が視界に眩しくて。
チクショー、シてぇ。
丸一日オヤジにアレしてコレしてソレさせてぇ。
由紀生がお茶を冷めるのを待っている向かい側で数也は熱々のお茶をグビグビと飲んだ。
十代の俺なら迷わず欲望に突っ走ってただろーな。
もう俺も成人済み、立派な大人の男だ(自立は生涯見込めねぇけど)。
そーだな、ここはデキた息子らしく感謝の意でも述べとくか。
思いの丈は常日頃ぶっ込んでっけど、今までちゃんと伝えたことねぇし、そーいうの。
オヤジのおかげで今の俺がいる、ありがとう、オヤジ、感謝してる、
「カズ君には感謝してる」
まさか先手をとられるとは思ってもみなかった数也は目を見張らせた。
熱さが落ち着いてきたお茶を一口飲んで、由紀生は、にこっと照れくさそうに我が子に笑いかけた。
「頼りなくて不甲斐ない父親だけど、カズ君のおかげでこうして一緒に成長できました。まぁ、まだ全然おっちょこちょいで、珍味も食べれないし、ブラックコーヒーも飲めないけど」
父親に感謝の意を述べられて硬直している数也に由紀生は続ける。
「一時はどうなることかと思ったけれどカズ君のこと信じてよかったです」
ありがとう、カズ君。
「……反則だろ、オヤジ」
ぽろりとそう呟いた数也の目に浮かぶは。
「え……カズ君?」
みるみる湧いてきた涙。
『っ俺のザー汁で満タンにしてやるよ……っ』
『おら……っこんな奥に精子……っ一晩中注げば……っ孕むの、確実じゃね……っ?』
『マジ、めちゃくちゃにしてぇ……』
『他の奴が見てる前でガツガツ犯しまくるとか……な』
数々の問題発言をかましてきたあの数也が流す涙に由紀生は視線を奪われた。
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