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ふと脳裏に緩やかに浮上したとある夜の記憶。 その夜、38度以上の熱が出て会社を休んだ由紀生は昼過ぎからベッドで寝ていた。 汗をかいたから服を変えないと、そう思っても、ひどく重たく感じる手足は動かすのも億劫で。 ベッドの中で寝返りもさぼって眠りと現実の狭間に溺れていたら。 キィ…… 「おやじ」 夕方、数也が部屋に入ってきた。 入っちゃ駄目だからね、と何度も注意していたのに。 「ん……カズくん……うつっちゃうから……きたら、だめ」 「おやじぃ」 ずっと布団に包まってぼんやりした頭でありながらも我が子の異変を察して、もぞり、由紀生が顔を上げてみれば。 「や……やだ……おやじ、死んじゃうの……?」 数也はぼろぼろ泣いていた。 ベッドまで走ってやってくると布団にしがみついて「ううううう」と嗚咽まで洩らした。 「死んじゃやだぁ」 由紀生は小学五年生の数也が布団に突っ伏してメソメソするのを眺めていた。 カズ君、予防注射だって平気で、躓いて転んでも泣かないし。 怖い心霊番組だって余裕で見れて、お父さんの方が怖くなってチャンネルを変えていたのに……。 ケホ、と咳をした由紀生、布団に顔を埋めて泣いている数也の頭をそっと撫でた。 「だいじょうぶ、カズくん、おとうさん、カズくんのそばにずっといるから……よしよし……」 強い子だと思っていた。 だけど、まだまだ、こどもだったんだね。 「よしよし、カズ君」 「……オヤジ」 由紀生ははっとした。 我が子の涙に親心を刺激された父は無意識に席を立つとテーブルを迂回して、数也のすぐ隣にまで歩み寄って。 飲食店では欠かせない清潔感をアピールする黒髪短髪を優しく撫で、撫で、していた。 昔のこと思い出して、ついつい、やってしまった。 今のカズ君にコレはないよね? もうすっかり大人になった身で、こんなこどもっぽい真似されたら、恥ずかしいよね……? 自分自身が恥ずかしくなって赤面している由紀生を数也は見上げた。 涙が止まった究極ふぁざこん息子はいつにもまして四十路に見えない学生然とした休日の父に口を開いた。 「……オヤジ、誘ってんのか?」

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