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11-夏休みすけべ
八月、由紀生の夏期休暇に合わせて数也は有休をとった。
「人、いっぱいだね」
由紀生が気になっていた映画を観に親子水入らずでお出かけした二人。
夏休み真っ只中で昼間は混んでいるだろうと、レイトショーの時間帯にやってきたものの、それでも商業施設内にあるシネコンは割と混み合っていた。
真っ先にチケットを購入し、上映時間までまだ時間があるので何か軽く食べようとグルメフロアへ、やはりどの店も混雑していて客が待っている。
「カズ君、何食べたい?」
「何でも。オヤジが好きなモンでいい」
「ほんと? えーと、うーん」
水玉柄の涼しげなシャツにスッキリめベージュのチノパンを履き、本革サンダルをぺたぺた言わせて由紀生は次から次に店を覗く。
恐ろしく四十路に見えない。
夏休みでレポート課題の作成もそこそこに浮かれている大学生みたいだ。
「オムライス食べたいな」
「ん」
「ちょっと待つけれど、いい? 映画遅れるかな?」
「まだ一時間あるし、間に合うだろ」
チクショー、久し振りにオヤジと夜に外出、クソクソクソクソクソ有頂天になりそーだ。
「うーん、クリーム系かデミグラス系か、どっちにしよう、うーん」
「俺がデミグラスにすっから。半分ずつ分けりゃあいーだろ」
案内されたテーブル、メニューの同じページを何度もぺらぺら捲ったり戻ったりを繰り返していた由紀生は数也のシェア提案にぱぁぁっと顔を輝かせた。
「半分こ!そうしよう!」
もう何なんだよ、オヤジ、俺にどうしてほしーんだよ、何が望みなんだよ、実はわざとか? 俺のこと弄んでんのか? 手玉とったつもりか? まーとっくの昔にとられてコロコロコロコロ転がされてっけどな。
由紀生よりも大いに浮かれている数也だったが。
彼はまだ知らない。
数時間後、近年において紛れもなくダントツの怒りに脳天ブチ抜かれることを。
「クソがッ見てんじゃねぇよ!!」
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