59 / 131

11-2

映画は生温い展開尽くし、これみよがしな予定調和でハッピーエンド、めでたしめでたし、な内容だった。 由紀生がいかにも好みそうな結末だ。 ぶっちゃけ数也は何度も船を漕いでいた。 割と埋まった館内、エンドロールで途中退席していく客がいる中、暗いと足を踏み外しそうで怖くて歩けない由紀生に付き合い、鑑賞マナーも踏んで、明るくなるまでシートで待機する。 欠伸を噛み殺していたらふと数也の目の前を誰かが横切った。 もちろん由紀生ではない、同じ列にいた客だろう、足早に暗いシアターを去っていった。 エンドロールが終わって緩やかに明るくなった視界。 「面白かったね、カズ君」 隣を見ればいつもと何も変わらない様子の由紀生が笑顔で話しかけてきた。 「まさかあの人が悪者だったなんて」 「あの人が出てきた瞬間わかったけどな、こいつ真犯人って」 「えええ? カズ君、すごい」 「忘れモンねぇな?」 「あ、うん。ねぇ、さっきの人」 先に立ち上がった数也の隣で、持ち物がちゃんと揃っているかトートバッグをごそごそ確認しながら由紀生は言う。 「すごく怖がりの人だったみたい」 「は?」 「あれ、ハンカチ……あ、よかった、あったあった」 「怖がり?」 「あれっ? 携帯は……あ、ポケットか」 「それ、どーいう意味だ?」 持ち物チェックをやっと終えた由紀生は立ち上がると数也を見上げて屈託なく笑った。 「ずっとお父さんの手、握ってたんだよ、隣の人」 「……は?」 「映画の途中からかなぁ。肘掛に乗せてたら、ぎゅって」 「……」 「最初は隣の隣にいたんだけど、よっぽど怖かったんだろうね、隣に移動して」 あんなに怖がりな人、初めて会ったよ、お父さん。 のほほんとした由紀生の言葉が脳内をガツンガツン揺さぶる中、数也は、かろうじて返事を。 「オヤジ……怖がりじゃねぇ……ソイツ変質者だよ……」 今すぐ追いかけてブチのめすこともできたかもしれない。 しかし数也はちゃんと相手を見ていなかった、それは由紀生にも言えた、ただ男だということしかわからなかった。 捌け口を塞がれて行き場を見失った怒りは脳内で暴れ回る一方だ。 じゃーーーーーーーーーーー!! 「も……もう十分洗ったよ、カズ君?」 映画館内にあるトイレ。 五分以上、センサー式の蛇口で延々と流水に右手を曝している由紀生。 液体ソープはもう空で泡も立たないというのに。 ただならぬ雰囲気の数也にずっとゴシゴシゴシゴシ手洗いされていた。 「カズ君? どうしたの? お、お父さんの手……そんなに汚かった?」 「汚ねぇよ」 息子の言葉に由紀生はガーーーンとショックを受けた。 夜八時以降より始まった映画は十時前に終わった。 これから上映される作品もあり、フロアにはまだ大勢の客がいる、トイレを利用する者だっている。 手洗い場のちょっとした異様な光景を目の当たりにしてぎょっとしている客に対し、怒りのままに……数也は怒号を発した。 「クソがッ見てんじゃねぇよ!!」 「コラッ! ごめんなさいっ、スミマセンっ、何でもないですっ」 数也の怒号にびっくりしながらも由紀生はすかさずドン引きしている客に謝り、再びトイレに二人きりになると息子を再度叱りつけた。 「カズ君っ、知らない人に<クソ>って言ったら駄目だよっ」

ともだちにシェアしよう!