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「うるせぇ」
「……もう、手、痛いよ……血が出そう」
「うるせぇ、マヌケエロオヤジ」
またガーーーンしている由紀生の右手を洗い続ける数也はおさまらない怒りでどうにかなりそうだった。
脳天を容赦なく揺さぶる苛立ちで窒息しそうだ。
腹が立ってしょうがない。
殴って殴って殴り尽くしてやりたい。
気づかなかった自分自身を。
「……カズ君、ごめんね……」
俺以外の手に触れられたなんて考えただけで虫唾が走って全身掻き毟りたくなるくらい狂的に苛ついて吐き気までしてくる。
俺のモンなのに。
……映画の途中からってことは一時間近く。
……クソクソクソクソクソクソクソクソクソ。
「わっ?」
とうとう怒りに身を任せた数也は由紀生を奥の個室へ引き摺り込んだ。
片手をびしょびしょにして呆気にとられている由紀生を前にして、彼は。
「っ、えええっ? カ、カズ君っ?」
由紀生はびっくり仰天した。
ネイビーのサルエルパンツとボクサーパンツをいきなりずり下ろしたかと思えば、目の前で、息子が……シコシコを始めたのだ。
ど、どうしちゃったの、カズ君?
さっきの映画で興奮しちゃったの?
「カズ君っ何してっ外でこんなことっ」
ものものしい手つきをどうやって止めればいいのか、あたふた迷う由紀生を、数也は上目遣いにじろりと睨みつけた。
「……しごけよ、オヤジ」
嫌がるヒマもなかった。
びしょ濡れの右手を引っ掴まれたかと思えば否応なしに股間に導かれて。
握るよう、シコシコするよう、強制された。
由紀生は一瞬にしてまっかっかに。
「カ……カズ君……っ」
個室の角っちょに追い込んで捕らえた由紀生の手で数也はがむしゃらにペニスをしごく。
怒りのパワーあってか一瞬にして発熱した近親肉棒。
ただ水滴で濡れていた掌にぬるぬると纏わりつき出す我慢汁。
「ッはぁ……ッ……クソ……」
真正面に迫った数也の抑えられない低い喘ぎが耳元で紡がれて、由紀生は、どきどきしっぱなしだ。
掌の中ですぐに硬くなって、熱を帯びて、立派に勃起したペニスの感触に頭も体も火照り始めた。
「オヤジッ、もっと強く」
「ッ……カズくん」
駄目なのに、公共の場でこんなこと、駄目なのに。
カズ君、すごく熱い。
そんなカズ君に触れてるところ、ぜんぶ、疼くみたいにジンジンしてる。
「あーー……ッいく……ッ」
「ええええ」
「もっと、もっと握って、もっと速く……ッ」
あわあわしている由紀生の手を握り直した数也は濡れた掌にペニスを擦りつけた。
ケダモノみたいな腰遣いで、呼吸を荒げて、歯を食い縛って。
「は……あ……ッッ……!」
「あ」
「ば、かッ……まだ離すなッ」
「あ、ごめっ、あっ」
掌にさらに擦りつけて白濁汁を塗りつける。
まるでマーキングだ。
水で洗い流すだけでは気がおさまらず、自身の体液を念入りに執拗にすり込ませ、他者の感触を意地になって掻き消す。
掌にマーキングされた由紀生は逆上せそうなくらい頬を紅潮させた。
背筋ぞくぞく、瞬く間にぬるぬるになってしまった右手に、お口ぱくぱく。
「オヤジはなぁ……俺のモンなんだよ、クソッ」
「……カズ君……」
「オヤジぃ……次からは端っこの席だぞ」
「え?」
「通路側だよ、通路側……隣は俺、他は許さねぇぞ……最悪、俺の膝上だからな」
「ええええ?」
由紀生に密着していた数也は気怠そうに少しだけ体を離した。
自分の精液で右手をびちょ濡れにした由紀生が震える眼差しで見上げてくる。
「ど……どうしよう、カズ君……」
肩からずれ落ちかけていたトートバッグがどさりと落ちた。
「お父さん、たっちゃった……」
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