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パラレル番外編-2
五月の体育祭。
グラウンドで開会式が行われている頃、数也は誰もいない教室でタバコをぷかぷか。
机に置いた空き缶に手慣れた風に灰を落とす。
次の一本を取り出し、吸い口の屑をふっと息で飛ばして、ライターで火を点ける。
カーテンがふわりと翻り、第一種目の開始を告げるアナウンスと爽やかな風が静かな教室に届いた。
「カズ君」
足音が聞こえていたので数也は別に驚きもしなかった。
ドアから顔を覗かせたのが父親の由紀生でも特に動じることもなく。
この歩き方はオヤジだな、と予想がついていたから。
「何してるの」
明るい廊下に束の間立ち尽くしていた由紀生は教室へ足早に進むなり、数也の手からタバコを奪い取った。
「カズ君、タバコはもう吸わないって約束したのに」
イスの背もたれに気怠そうに仰け反った制服姿の数也は、明るいイエローのスポーツパーカーを羽織った由紀生を真っ直ぐに見上げた。
「それ、どっちだよ」
「え?」
「父親として怒ってんのか? それとも教師としてか?」
数也の質問に当惑していた由紀生だったが。
数也がまた次の一本を取り出して火を点けようとし、思わずカッとなって。
数也の頬を平手打ちした。
「理由を言いなさい」
「……」
「不満があるのならちゃんと言いなさい!じゃないと!対処の仕様がない!」
思いきり打たれたわけじゃない。
それでもジンジンと疼く片方の頬。
「教師っぽいな、ソレ」
由紀生が見ている先で数也はタバコをぐしゃりと握り潰した。
「言えば対処してくれるわけか」
イスが後ろへ倒れるくらいに荒々しく立ち上がった息子に父親は思わずビクリとしてしまう。
「びびってんじゃねぇよ」
「あ」
「なぁ、オヤジ? ん、ココではセンセーって言うべきか?」
「カズ君」
「俺の不満、処理してくれんだよな、由紀生センセェ?」
自分より上背のある数也に顔を覗き込まれて由紀生は微かに息を呑んだ。
赤くなった片頬にゆっくり添えられた指先。
生徒にも、我が子にも、これまで本気で一度も手を上げたことがない、教師であり、父親でもある由紀生は言った。
「……痛かったよね、ごめんね、カズ君……」
打った当人である由紀生の双眸にじわっと涙の膜が出来上がったのを目の当たりにして、数也は、ごくりと息を呑んだ。
正に今、堪忍袋の緒は切れた。
無意識にこの身を煽り続けてきた父親に念願の制裁を。
数也は由紀生にキスをした。
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