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パラレル番外編-3

「んっ」 キスされた由紀生はしばし状況が理解できずに硬直していた。 ゴールした走者の名前がグラウンドで読み上げられていく。 次の走者達に向けたピストル音が高々と鳴らされる。 強張っていた唇の狭間を熱もつ舌先がおもむろになぞる。 「ッ、カズく……?」 我に返って慌てて身を引こうとする由紀生、そうはさせまいと抱き寄せて隔たりを拒絶する数也。 なぞっていただけの舌先が唇奥まで滑り込んでくる。 微熱に温もる口内を掻き回された。 「んっ? ン……っちょ、ッン、ッン、ッン!」 喋ろうとすれば食べられるみたいに齧りつかれた。 まるで口腔が舌でいっぱいになるような。 濡れた舌尖で満たされるような。 「んん……っゃ……っんむ……!」 身を捩らせる由紀生を強引に抱き込んで数也はキスを続けた。 欲望を雁字搦めに縛っていた鎖は、次第に劣化し、決定打を待ち望んでいた。 そうして解けた戒め。 もう元には戻らない。 戻すつもりもない。 「んんんんっ!ん……ッぅ……ッ!」 当たり前の拒絶を正面で感じ取りながら数也は由紀生の唇を荒らすだけ荒らして。 近くの机に由紀生を押し倒した。 両足の間に割って入り、華奢な両手首を押さえつけ、離れ離れになっていた唇同士を再び繋げる。 もっと荒々しく。 欲望に忠実に。 好きなだけ。 「んーーーっ……ゃ、ぁ……ッ!カズ君ッ!なにしてッ!?」 「処理してくれんだろ……?由紀生センセ?」 「こんなこと……っ反抗期にも程があるよっ!そもそも、もう十八歳なのに!そろそろ落ち着いてもいいのにっ!」 「あーーー……反抗期ね……多分、俺、一生続くわ」 「ええええっ」 やっと唇から離れてくれたかと思えば、耳元、首筋に小刻みなキス、ついでに甘噛みされたり。 パーカー下に着ていたシャツをべろんと捲られたかと思えば、乳首まで……舐められたり、吸われたり。 「あ……ッやだ、そんなとこ……っひどいよ……どこまでお父さんをいじめれば……気が済むの……?」 溜まっていた涙がこめかみへスゥッと伝い落ちていく。 腕捲りした長袖シャツをぎゅうううっと掴んでいる両手。 求められているのかと、そう、淡い喜びを抱いてしまう。 「オヤジのこと一生いじめてやるよ」 「んっぁっ、やっ……あ……っ」 「こんな風に無理矢理キスして、体中舐め回して」 「な、何言って」 「何回も何回もセックスしてやる」 「セ……ッ!?」 上体を起こして由紀生の両手首を一端自由にした数也は、ありえない台詞を聞かされて身動きすらとれないでいる由紀生の目の前で。 カチャカチャとベルトを外してファスナーを下ろしきり、ボクサーパンツをずらして。 「……う、うそ……」 目の前で完全勃起したペニスを取り出されて由紀生はまっかになった。 「な、なんで、そんな……」 「は? フツーだろーが。健康の証じゃねぇの?」 「ち、ちが、そういう意味じゃなくて……だって……お父さんだよ? 男だよ?」 「オヤジがいーんだよ、俺は」 我が子よりも生徒の方が大事なのでは。 数也は思春期前半にそんな不安を抱くようになった。 父親のテリトリーに嫉妬した。 自分もそこに入り込みたい、生徒に由紀生を奪われないよう、自分も生徒になって監視したいと企んだ。 できる限り長く腰を据えたいと思って選んだのが連続留年という道だった……。

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