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15-あけおめすけべ

「あけおめ、ことよろ、オヤジ」 「違うでしょ、カズ君、ちゃんと言わないとだめ」 朝一で掃除を済ませて綺麗に片づけられた部屋。 ダイニングテーブルには出来立てお雑煮と二段重の洋風おせち。 「あけましておめでとーございます」 「うんうん」 「不束な息子ですが今年もどーぞよろしくお願いします」 美味しそうな料理が並ぶテーブルを挟んで向かい合った二人。 我が子・数也に大袈裟なくらい深々と頭を下げられて由紀生はくすぐったそうに笑う。 「あけましておめでとうございます、カズ君」 「えっ?」 食べ始める前に数也から差し出されたソレに由紀生は目を丸くした。 「どーぞ、オヤジ」 かつてはパツキン頭でじゃらじゃらだらけ、ブショーヒゲ、わかりやすい反抗期まっしぐらで留年しまくっていた元親不孝息子。 今は黒髪短髪、仕事場となるイタリア料理店ではホールスタッフとして小まめにきびきび立ち回って店主にも常連客にも評判がいい。 そんな息子から手渡されたポチ袋を由紀生はまじまじと見つめた。 「毎晩毎晩飽きずに残業こなしてるオヤジにご褒美のお年玉」 「カズ君」 「ほら、雑煮冷めんだろーが、早く食えよ、餅は二つ入れてっからな、慌てて食って喉詰まらせんじゃねーぞ」 「っ……いただきますっっ」 カズ君、いつの間にこんな立派になったんだろう。 お父さんすごく感動しちゃったよ。 こんな晴れ晴れしい気持ちで新年を迎えられるなんて、なんて幸先いいスタートなんだろう、まだまだ冬なのに桜満開の春に辿り着いたみたいな。 「何一人でニヤけてんだよ」 「お雑煮、おいしいね、スープも出汁がきいてる」 「どーも」 「おせち、どれから食べよう、迷っちゃうなぁ」 「どれもウチの自信作だからな、どれ食ってもウマイぞ」 「ますます迷っちゃうなぁ」 「オヤジいつまでポチ袋持ってんだよ、食べづれぇだろ」 もうじき正午に差しかかる時間帯、空は青く澄み渡った快晴の模様、しかしながら各地例年を上回る寒さに見舞われるとのこと。 暖房がよく効いたあたたかな部屋で正に家族団らん、これぞ家族水入らず、ならびに家庭円満。 「コレはオーナーから」 「ワインだっ」 「ん。白。スッキリ飲み口でフルーティーな味わいだと」 「ふるーてぃー」 「せっかくだし開けるか」 普段の由紀生ならばお正月とは言え「まだ十二時前だし、せっかくの頂き物だし、夜にとっておこう」なんて言っていたかもしれない。 しかし数也からの思いがけないお年玉にテンションはハイ気味、昂揚する気分のままに即答した。 「開けようっ飲んじゃおうっ」

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