85 / 134
16-おにはそとすけべ
去年の暮れ、由紀生は法事で自分の両親及びご御親戚一同とお墓参りにいってきた。
「由紀生おにーちゃん!」
大人達がせっせと花を変えたり掃除している中、連れてこられた年少こどもらは退屈し、一番優しそうな大学生風四十路の周りにわっと集まった。
「あはは。気を遣わせちゃったかな。おじちゃんでいいんだよ?」
「抱っこしてー!」
「はいはい、あれれ、結構重たいね」
「おんぶー!」
「はいはい。う。ちょっと腰に来るかな……?」
パワフル幼稚園児による前後攻撃にヨタヨタしながらも「みんな大きくなったね」と由紀生が感慨深く頷いていたら。
「俺が一番大きいぞ、オヤジ」
由紀生にへばりついていたこども二人をべりべり引き剥がして両脇に抱えた数也。
「「わーー!」」
「カズ君、乱暴にしちゃだめだよ?」
由紀生と同様、黒のネクタイを締めてスーツを着た数也はフンと鼻を鳴らした。
「オヤジに馴れ馴れしいんだよ、こいつら」
「数也君、本当大きくなったわね」
「一時期はどうなることかと思ったけど」
「由紀生ちゃんより貫禄あるんじゃない?」
親ばか由紀生は「それほどでも」とイトコらに照れ笑いしつつ、墓地の片隅でちっちゃなこどもをブンブン振り回している数也をちらっと眺めた。
スーツ着てるカズ君って見慣れないから新鮮だ。
みんなに褒められて、うん、お父さんすごく誇らしいよ。
だから、カズ君、お願いだからいつものやつ我慢してね……?
「数也はまだ家を出とらんのか、早く自立しろ!」
「うるせぇカツラ!! 親戚だからって余所の家に口出しすんな!!」
……大叔父さんのそれはカツラじゃなくて植毛なんだよ、カズ君……。
そんなこんなでバタバタな暮れ、年明けを迎えたかと思えば、あっという間にもう二月。
「主任、今日節分ですよ」
頼んでいた資料ファイルを渡される際、部下にそんなことを言われ、貫禄なしな風貌ながらも主任の座に就く由紀生は窓際のデスクで目を見張らせた。
「鬼は外、福は内、ぱらっぱらっぱらっぱらっ」
呑気に歌い出した爽やか部下に由紀生もつられて呑気に歌う。
「豆の音~」
「数也君と豆まきしないんですか?」
「もう豆まきする年頃でもないし」
昔はよくしたなぁ。
お父さんが鬼の役、カズ君がぶつけてくる豆が地味に痛かったの、今でも覚えてる。
『おやじ、まいた豆は拾わないで犬みたいに這い蹲って床から食べるのがルールなんだって』
『お父さん、そんなの聞いたことないよ。年の数だけ食べるっていうのは知ってるけど』
『ほら、犬みたいに這い蹲って食べないと』
『難しいよ、カズ君』
今思い返してみればあれってカズ君の嘘だよね、からかうにもひどいなぁ、どうしてあんな嘘ついたんだろ。
「ん?」
昼休憩に入り、デスク引き出しからスマホを取り出してみれば数也からメールが届いていて、確認した由紀生は目を丸くした……。
ともだちにシェアしよう!