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17-またまたまた父の日

六月第三日曜日。 数也にとって夏期休暇よりクリスマスよりお正月より盛り上がる大イベント、父の日がやってきた。 「今日は何でもオヤジの言うこときいてやるよ」 洗面所で顔を洗い、タオルでゴシゴシしながらリビングに向かえば前もって有休をとっていた息子にドヤ顔全開で言われて、由紀生はキョトンした。 四十路でありながら瑞々しい空気感で水玉パジャマを着こなしている。 何の手入れもしていないくせに色艶抜群なお肌。 大学キャンパスに放り込めば容易く溶け込めそうなくらい恐ろしく若々しい。 「何でも?」 「何でも」 Tシャツにハーパンというざっくり家着姿の数也。 十代後半はパツキン、顎ヒゲ、喫煙、ピアス、何かじゃらじゃらしたものを身につけて通常よりも長い高校生活を送った元不良息子。 今はイタリア料理店でホールスタッフとして真っ当に働いている。 ヒゲは毎日剃って、短い黒髪、ピアスも外し、ウェイター服をぱりっと着こなす男前。 たまに親戚一同が集まった際に「まだ自立せんのか」と言われようものなら素直にブチギレる究極ふぁざこん息子。 外で雨がしとしと降る中、前髪を濡らした由紀生は数也に笑顔で答えた。 「じゃあ一緒にラーメン作ろう」 「ラーメン? 麺から?」 「まさか。袋麺のやつ。何があったかな」 「スープは? 数時間煮込んだりする必要ねぇの」 「え? だってスープの素ついてるでしょ?」 しばしポカンした数也は嬉しそうにニコニコしている由紀生を呆れたように見下ろした。 「ガチでふつーのラーメンかよ」 「うん」 「せめてモヤシくらい炒めて入れようぜ」 「あ、いいかも。贅沢して玉子も入れちゃおっか」 「オヤジがやると硬くなり過ぎっから俺がやる」 かくしてキッチンで極々普通のインスタントラーメンを作り始めた二人。 「ニンニクちょっと入れっか」 モヤシを炒める担当の数也、慣れた手つきでフライパンを揺する我が子を隣でわざわざエプロンをつけて麺を茹でていた由紀生は微笑ましそうに眺めた。 『フライパンおもたい』 小学生の頃は頑張ってお手伝いしようとしてくれて、だけどフライパンやお鍋が重たくて持てないって、愚図ってたあのカズ君が。 「今は片手で持てるんだね」 「オヤジ、鍋、噴き零れかけてんぞ」 「あっほんとだっ」 「あとな、そのラーメン、先に器に液体スープ入れとくタイプだから。鍋に入れるんじゃねぇぞ」 「えっそうなのっ?」 「後はネギ刻んで入れっか」 「お父さんがするよ?」 「オヤジが刻むと太くなるから俺がやる」 ほんとに立派になったなぁ、カズ君、お父さんリードされっぱなしだ。 『ほーちょー、こわい』 前はあんなに包丁のこと怖がってたのに、ふふ。 「オヤジ、味噌と醤油とんこつ、どっちがいい」 「半分こ、しよう、どっちも食べたい」 「ん」 そうしてひと手間加えたインスタントラーメンが出来上がった。 飲み物は作り置きしていた麦茶、氷を入れて色違いのグラスに注いで、ダイニングテーブルで向かい合って乾杯。 「父の日おめでとう、オヤジ」

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