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いつも思うけど誕生日みたい。 他のお宅でもこんな風に乾杯するのかな。 「カズ君、モヤシおいしい」 「どーも」 窓の外から届く些細な雨音はラーメンをずるずる啜る音にしばし掻き消された……。 「おいしかった、おなかいっぱい」 「俺はもう一杯いけるけどな」 「ほんと? すごい」 「洗い物してくる」 「お父さんがするよっ?」 「いーから。座ってろ」 由紀生はお言葉に甘えてソファに座り、テレビをつけるでもなくキッチンで黙々と後片付けする数也を眺めていた。 二人分の食器の洗い物をあっという間に終えた数也は由紀生の隣に座った。 ずっとニコニコしている父親は、自分よりも頑丈そうな我が子の肩に頭をこてっと預けた。 「雨、ずっと降ってるね」 「そーだな。なぁ、次は。何かねぇのか」 「次? うーん」 「食いたいモンとか」 「今、お腹いっぱいだから。思いつかないなぁ」 「買いモンとか」 「雨降ってるし」 曇り空、エアコンはドライを選択、頬に触れる人肌が心地いい室温に保たれている。 「せっかくの父の日だろ」 肩から回された数也の大きな手が由紀生の頭をそっと撫でた。 「うん……カズ君とはなかなか休みが合わなくて、夜ごはんだって別々にとることが多くて」 「ん」 「だから、こうやって一緒にのんびり過ごせるだけで。お父さん、すごく嬉しい。こんな時間、何よりも贅沢に思う」 頭を撫でていた手がサラサラした髪の狭間に潜り込んで、ゆっくり梳かれて、由紀生は気持ちよさそうに瞼を半分閉ざした。 「カズ君」 半開きの双眸で上目遣いにおずおずと見つめられて。 見つめられた数也は小さく笑った。 「ほしいのかよ」 頬をうっすら紅潮させて浅く頷いた由紀生に笑いながら数也はキスした。

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