103 / 134
小ネタあつめ!!
■メリクリ!!
由紀生は数也へのプレゼントをこっそり買っていた。
「よーし、じゃあラッピングしよっと」
イタリア料理店のホールスタッフである数也より少し早く帰宅した父、肩凝りも眼精疲労も何のその、念入りに隠していたプレゼントを取り出した。
『へー、主任、カズヤ君にクリスマスプレゼント買ったんですか!』
『うん』
『綺麗にラッピングして渡したらカズヤ君、そりゃあもう喜ぶんじゃないですか!?』
『それ、名案かも』
成人を過ぎた、思春期にはパツキン顎ヒゲ、なんかじゃらじゃらしたものを身につけ、平気で喫煙、ばりばりグレていた数也なのだが。
由紀生とその部下の目には果たしてどう写っているのか……。
「よーし、リボンも買ってきたし、綺麗に結んでっと……あれ、なかなかうまくいかないな……ふわぁ……ああっだめだめ、寝ちゃ……ふわぁぁぁ~……」
「ただいま」
嫌と言うほどクリスマスソングやクリスマスデートのカップルに溢れていた深夜の街中を通って数也は我が家に帰宅した。
「オヤジ?」
リビングを覗いてみれば。
「むにゃ……カズくん……」
スーツのままダイニングテーブルに突っ伏して由紀生が寝ていた。
何故かリボンがぐるぐる絡みついている。
リボンに塗れた父親の姿に数也ははっとした。
これは……俗に言う……自分がプレゼント、心置きなく食べてねパターン……!!
ぐしゃッッ!!
「えっ、何の音っ、あっ、カズ君、おかえっ、ああっ、ちょっと待って、まだラッピングが、見たらだめっ、あれっ、それクリスマスケーキっ? どうして床に落っこちて、っ、っ、カズ君っ? ここお風呂場じゃなくてリビングなのにどうして服脱ぐのっ? 寝惚けてるっ? カズくーーーんっ!?」
「最高のプレゼント、たまんねぇよ、オヤジ」
■忘年会!!
「お先に失礼します」
夜十一時まで営業しているイタリア料理店のホールスタッフである数也がその日仕事を終えて帰路についたのは十一時半。
「ただいま」
自宅に着いたのは日付が変わる少し前。
「おかえり、カズ君」
入浴を済ませてシンプルな部屋着で待っていた由紀生は笑顔で出迎える。
リビングのコタツ上には準備が整った具だくさんの鍋料理。
夜も更けた今から家族忘年会の始まりだった。
「この辺はもういいと思うよ、白菜とか春菊」
「牛肉そろそろ入れねぇ?」
「そうだね、じゃあこの辺に」
「ブリも」
「え、もったいないよ、ずらして入れよう?」
どうしてこんな深夜に忘年会なのかと言うと二人の仕事の都合なわけで。
平日である明日、由紀生は有休をとり、数也は定休日、よってゆっくりできる二人は深夜の鍋を正に家族水入らず状態でコタツでのんびりつつく。
「カズ君、先にお風呂入らなくてよかったの?」
大した残業もなくすんなり帰宅できた由紀生、髪はまだ乾いていない、肩にタオルを引っ掛けてスパークリングワインをちびちび飲んでいる。
「明日入る、おら、牛肉もういいぞ」
上はそのまま、下だけ部屋着に履き替えた数也は父親の皿に牛肉を取り分けてやった。
「ZZZZ……」
毎年恒例のまったり家族忘年会は由紀生の寝落ちで大抵お開きとなる。
現在時刻は深夜二時過ぎ、テーブル上は大皿や小皿、鍋といった洗い物で占領されていて。
明日でいーわ。
辛口赤ワインのボトルを綺麗に空けた数也、もちろんグラスで飲み干して、真正面でスヤスヤ中の由紀生を眺めた。
「今年もお疲れ様でした、な、オヤジ」
まぁ、まだ今年残ってるけどな。
洗い物をとりあえずテーブルの片面にまとめて、腕を伸ばし、しっとりした髪に触れてみる。
テーブルに突っ伏した由紀生は特に反応しない。
リビングの静寂に溶けていく小さな寝息。
……クソかわい。
父親の何てことはない寝姿に、丁度良い酔い心地の数也、釘づけだ。
おもむろにコタツを出、由紀生の背後に回り、座る。
あまあま恋人同士みたいに背中をそっと抱きしめてしっとり髪に頬をくっつけてみる。
「……ん……」
小さな声を洩らした由紀生だが目覚めてはいないようだ。
ぽかぽかした体温を満喫しながら、数也は、無防備なうなじに柔らかなキスを。
重度のファザコン属性である数也は「こいつまじクソかわいい」と脳内連発しつつ、お腹いっぱいで一日の疲れもあって、そのまま、こっくり夢の中……。
『おとぉさーん! ほらほら、アリジゴク!』
『蟻さん、かわいそう』
父の背中で久しぶりに過去の夢を見る息子なのだった。
ともだちにシェアしよう!