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パラレル番外編-5

「それじゃあ主任、どうもお疲れ様でした!!」 最寄駅で爽やか部下と別れてマンションに帰宅したのは夜八時過ぎだった。 「楽しかったけど疲れた……」 外見は大学生ながらも中身は四十代、クタクタになった由紀生はソファに倒れ込んだ。 「オヤジ、風呂沸かすから入れよ」 「うーん……数也、先に入っていいよ……ふわぁ……」 「寝たら風邪引くぞ」 久し振りにお昼の日の光、まともに浴びたような気がする。 バーベキューでいっぱい食べたから、お腹もそんなに減ってない。 後で北九州のおばさんからもらったお煎餅オツマミにして、缶ビール一本くらい空けようかな……。 「ふわぁ」 手洗い・ウガイはかろうじて済ませていた由紀生はソファに俯せになってウトウトのねむねむ状態、着替えるのもさぼって、長時間移動で疲弊した体を横にできる喜びにどっぷり溺れた。 ふわ…… おもむろにかけられたブランケット。 肌身を包む優しい感触に由紀生は気持ちよさそうに喉を鳴らし、ごろん、仰向けになった。 「んーー……」 「……オヤジ」 小さな呼号が降ってきたかと思えば。 次に唇に優しい感触が舞い降りた。 ああ、カズ君かぁ……。 今日はいっぱいごはん食べて、お外でいっぱい遊べて、カズ君も楽しかった……? 半分夢の中に浸かっていた由紀生は微睡みがちに腕を伸ばし、すぐそばにあった我が子の頭を抱き寄せ、頬擦りした。 「オヤジ」 あれ。 何かいつもより声が。 「どーいうことだよ」 微睡みが一気に醒めた由紀生は慌てて目を開けた。 目の前にいたのはパツキン数也だった。 眉間に皺を寄せ、信じられないものでも見るように、父親を凝視していた。 「カズ君」 「何だよ、今の」 「え? えっと、お父さん、寝惚けてたみたい」 「寝惚けて誰と勘違いしたんだよ」 由紀生は目を見張らせた。 「オヤジ、誰か付き合ってる奴がいんのか」 起き上がりかけた由紀生の肩を力任せに掴んでソファに押し戻し、驚いている父親の顔を間近に覗き込み、明らかに激昂しかけているパツキン数也は詰問した。 「今みたいに誰かに甘えてんのか、無防備なツラ見せてんのか、キスされてヘラヘラしてんのか」 肩に容赦なく食い込む五指に眉根を寄せ、それでもパツキン数也を押し返すことも咎めることもせず、由紀生は伏し目がちになった。 「それ、は……えっと……」 十七歳の数也は十八歳の自分が犯す過ちを当然知らない。 混乱させてしまうかもしれないと、由紀生は真実を伝えるのに躊躇する。 言い渋る父親の姿にパツキン数也はさらに眉間の縦皺を増やした。 「オヤジは俺のモンなのに」 子供じゃない。 大人でもない。 正しく混沌たる青少年の顔。 大いに見覚えのあるその表情に由紀生は目を奪われた。 「……カズ君……」 無性に切なくなって。 過去の思い出に胸を掻き毟られて。 由紀生は衝動のままにパツキン数也にキスをした。 大きく見開かれた息子の目。 『蟻さん、かわいそう』

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