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前回、由紀生が恋斗に会ったのは半年ほど前で、やっぱり法事のときだった。 「恋斗君、大きくなったね。幼稚園では今どんなことしてるの?」 「あったかいプールでおよいでる」 「温水プールかぁ。おじちゃん、温水プールで泳いだこと一回もないなぁ」 「じゃあ、こんど、いっしょにおよご」 「うん、そうだね、いつか一緒に泳げたらいいね」 小さな恋斗の手をしっかり握って歩く由紀生。 その後ろをスーツのポケットに両手を突っ込んでふてぶてしげに歩く数也。 「堂々と手なんか繋ぎやがって……ガキだからって調子乗ってんじゃねぇぞ……」 「カズ君、後ろで何かブツブツ言ってる?」 まったくもって大人げない数也は最愛の父親をジロリと睨み、睨まれた由紀生はただただキョトンし、恋斗に向き直った。 「晩ごはん、何食べようか、恋斗君、何か食べたいものある?」 「オムライス」 「オムライス! いいね! おじちゃんもオムライス大好き!」 擦れ違った数人の通行人は微笑ましそうにクスクス笑い、背後でおっかないオーラを噴出させている数也に気がつくと瞬時に顔を逸らした。 そこへ。 数也の神経をさらに逆撫でする人物が現れた。 「あれ、主任じゃないですか!」 由紀生の元で働いている爽やか部下だった。 「お葬式の帰りですか! ご愁傷様です! あれ! このお子さんは!?」 「親戚の一周忌だったんだけど。イトコの子どもなんだ」 忠犬並みに走り寄ってきた彼に由紀生は恋斗を紹介し、紹介された恋斗はぺこりとお辞儀をした。 「■■恋斗です、五歳です、どうもこんにちは」 しっかりしている恋斗に由紀生も爽やか部下もデレデレになる。 ちょろっと自己紹介できたくらいで大袈裟だと、数也は一人不貞腐れる。 「あれれ、カズヤ君はご機嫌斜めかな?」 マジでガチでうぜぇな、コイツ。 「レント君に主任をとられちゃったみたいでヤキモチやいてるのかな!」 今すぐグーで殴りてぇ。 数也はグーで殴りたい欲求を寸でのところで堪え、爽やか部下と別れた一行は一先ず自宅マンションへ帰宅した。 「今日はカズ君がお子様ランチとお父さんランチ作ってくれるって」 イタリア料理店にホールスタッフとして勤務している数也、本日は休みをもらっていたが、お行儀よくしている恋斗に由紀生が話しているのを聞いて世にも険しい仏頂面と化した。 「オヤジ、俺、お子様ランチの作り方知らねぇぞ」 「いつも作ってくれるお父さんランチと同じ内容でいいと思うよ?」 こども舌の由紀生に平然と言われ、しかも視線は恋斗に注がれっぱなし、さっさと部屋着に着替えていた数也はヒクリと目許を引き攣らせた。 しっかしながら。 恋斗に構いっぱなしでまだ喪服姿でいるストイック感満載の由紀生に大いににそそられて。 「えっ?」 ソファでミニカーを走らせる恋斗をすぐ隣で見守っていた由紀生の顎を引っ掴み、びっくりした父親に、そのままキスを……。 「こら!」 由紀生は数也をぽかりとゲンコツした。 「きょ、今日はそういうこと禁止だよ、カズ君!」 呆気にとられている数也に、瑞々しい頬を紅潮させて由紀生が注意していたら、ミニカーに夢中になっていた恋斗が顔を上げた。 「ゆきお、おこってるの?」 「おい、俺のオヤジを軽々しく呼び捨てにするんじゃねぇ」 「カズ君っ、こら!」 「やさしいゆきおをおこらせるなんて、かずくんは、こどもなんだね」 一回り以上も年下のこどもにこども呼ばわりされた挙句。 「本当だよ、カズ君、恋斗君より小さい子供みたい!」 まだ顔が赤い由紀生にまで侮辱されて数也は棒立ちになった……。 でもパツキン頭に両耳ピアスでじゃらじゃらだらけだった思春期と比べればそれなりに成長していた成人息子。 「やっぱりどのお店のオムライスよりもカズ君の作ったオムライスがおいしい!」 夜、ちゃんと二人に晩ごはんを作ってあげた。 「恋斗君、一人でお風呂入れるの? えらいね!」 ただし五歳児に対する由紀生の構いっぷりには相変わらずイライラムカムカが絶えなかった。 「ほらほら、見て見て! カズ君のお古のパジャマ、恋斗君にぴったり!」 「どこから引っ張り出してきたんだよ」 こども用の下着や歯ブラシなどは最寄りの大型スーパーで買ってきて、食後のデザートとしてケーキも用意されていて。 「歯磨き粉、苦くない? 大丈夫かな? しっかり磨けたらお口ぶくぶくしようね?」 より一層湧き出てきた不満。 「オヤジ、そいつどこに寝せるんだよ?」 「え? 恋斗君、今日はお父さんと一緒に寝るよ?」 「断固反対」 「えええ?」 「ソファでいいだろ」 「そんなの駄目だよ」 「じゃあ俺のベッドに寝せろ、俺がオヤジと寝る」 「かずくんは、まだ、ひとりでねれないの?」 眠たそうに欠伸しながらも厳しい言葉を恋斗に浴びせられて数也は奥歯をギリギリ鳴らした。 「カズ君! 歯軋りしたらだめ!」 「じゃあ俺と寝せろ」 「えぇぇえ……寝返り打ったら恋斗君のこと潰しちゃいそうだから怖いよ、お父さん」 「確かに。たまにオヤジ潰されてるもんな」 「ゆきお、つぶされてるの? かわいそう」 「ッ……とにかく! 今日はお父さんと恋斗君が一緒に寝ます! 以上です!」 あーーーーーーー、なんでこんなガキとオヤジが一緒に寝……あ゛あ゛あ゛あ゛。

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