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「よくよく考えてみりゃあ大浴場なんか行ったらオヤジの体みんなに丸見えじゃねぇか」 とんでもない事実に気がつき、大浴場での入浴を禁じてきた数也に由紀生は必死になって食い下がった。 「水着を着るし、そもそも周りみんな丸見えだし、大丈夫だから」 「絶ッッ対、駄目だ、却下」 「やだやだやだやだ」 「駄々こねんじゃねぇ」 「じゃあお父さん一人で行く」 「あ? 益々危険じゃねぇか、誰が許可できっか、ナンパされたらどーすんだ、ふざけんじゃねぇ」 首を縦に振ろうとしない数也に由紀生は困り果てた。 「あのね、社員旅行でも普通に大浴場でみんなとお風呂に入ってたし、今さらそんなーー」 「おいおいおいおい、初耳だぞ、おい」 真っ暗オーラを纏って自分の肩をミシミシ掴んできた我が子に、由紀生は……膨れっ面と化した。 「父の日旅行なのに。どうして主役のお父さんが自由行動とれないの。カズ君、ずっと機嫌悪いし、ケチばっかりつけてくる。せっかくのお父さんの日なのに」 さすがの数也もぐっと詰まった。 パンフレットを指差してはしゃいでいた先程の由紀生が脳裏に蘇り、肩を竦め、どでかいため息を一つ。 「仕方ねぇな」 「カズ君」 「水着じゃなくて服着たまんま入れ」 「やだ!」 なんとか数也を説得し、昼下がりの大浴場へ向かおうとした由紀生に。 「その足なんだよ」 説得されたはずの数也が新たなケチをつけてきた。 「足出し過ぎだろ」 クローゼットに用意されてあった涼しげ快適な作務衣を着ていた由紀生はキョトンする。 「カズ君も同じ作務衣着てるよ」 「クソ……半裸どころかオヤジの脹脛(ふくらはぎ)まで赤の他人どもに見せなきゃなんねぇのかよ……クソ」 「なんかそれ逆なような気もするけど」 いちいちケチをつけてくる数也を引っ張って、今度こそ、由紀生は大浴場混浴露天風呂へ。 「わぁ、いっぱいだね」 ぎゅうぎゅうすし詰め状態……とまではいかないが、この時間帯でも盛況だ、だだっ広いスペースに何種類ものお風呂ゾーンが設けられ、数多の老若男女がそれぞれ入浴を愉しんでいた。 「カズ君、水着ありがとうね」 売り場で由紀生が膝丈のサーフパンツのみ購入しようとしたら、さっと奪い、ご丁寧に羽織るタイプのラッシュガードまで追加して支払いを済ませた数也。 「ジッパー下ろすんじゃねぇぞ」 「えぇぇえ。お父さん、暑い」 「公共の場で乳首曝すなんて露出狂か、オヤジ」 「男の人ほとんど曝してるし、カズ君だって曝してるし」 数也はフンとそっぽを向いた。 お揃い……は、さすがに寸前でブレーキをかけ、シンプルな無地のサーフパンツを履いた彼は滝行打たせ湯コーナーではしゃぐ由紀生に付き添っていたのだが。 パシャリ!! 「は?」 近くで平然とスマホ撮影していたカップルに眉根を寄せた。 「ここって撮影可なんだって」 「は? ありえねぇだろ。水着のオヤジが写り込んでたらどーするんだよ」 「写り込んじゃったら仕方ないかな」 「写り込むだけでも耐え難いっつぅのに、その写真がSNSでバラ撒かれたら……考えただけでも反吐が出る、悪夢じゃねぇか、オヤジが世界中の他人どもに視姦される」 「大袈裟だよ」 「さっきのカップルのスマホ没収してくるわ」 「やめなさいっ」 本気でカップルのそばへ歩み寄ろうとした数也の腕にしがみついて「今度はあっち、足つぼ風呂行こう! お風呂の底がデコボコしてるんだって!」と、由紀生は必死こいて我が子の暴走を阻止した。 危ない、危ない、昔のカズ君が出てくるところだった……。 「ッ……い、い、痛い……!」 安堵していられたのも束の間、由紀生は足つぼ風呂で悶絶地獄に突き落とされた。 「前に進めない……!」 「マジかよ、オヤジ」 「カ、カズ君、なんでそんな平気な顔して歩けるの……ううう、一歩進むのもツライ……!」 ヒィヒィしている由紀生の姿に数也は笑った。 「働き過ぎて疲れ過ぎだ、オヤジ」 悶絶地獄にヒィヒィしながらも。 成人息子の心からの笑顔に由紀生はほっとする。 カズ君も一緒に楽しんでもらえてよかった……。 「痛がってるオヤジ見てたら勃ちそうだわ」 「ッ……しーーーー! しーーーーー!!」

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