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3-勘違いも程々にしやがれ

「主任、今日はごちそうさまでした!」 「そんな。カツ丼奢ったくらいで大袈裟だよ」 「僕、カツ丼が一番大好物なんです!」 「え、ほんとに?」 「はい!」 まだ最終には至っていない、程々に混み合う夜十時過ぎの電車内、由紀生は職場の爽やか部下と帰路についていた。 雨が降り始めていた。 最寄の駅に着く頃にはやむどころか雨足がさらに強まり、傘を持っていない由紀生が徒歩五分の自宅までダッシュか、近くのコンビニで傘を購入するか、さてどうしようかと考えていたら。 「僕、折り畳み傘持ってますから、主任、送りますよ!」 路線どころか降りる駅も同じ部下が超過勤務もどこ吹く風の爽やかスマイルで由紀生に申し出てきた。 「ええ? いやいや、そんな、君の家はあっちだし、自分はこっちだし」 「へっちゃらです、腹ごなしに丁度いいですから、遠慮しないでください!」 「でも……」 「じゃあ送ったお礼にまた今度僕にカツ丼おごってください!」 爽やかに冗談をかます部下に由紀生は思わず笑ってしまった。 改札口を後ろにし、雨の降り頻る見慣れた街並みを前にして、では爽やか部下のお言葉に甘えようかと気持ちが傾きかけた、そのとき。 「オヤジ」 ビニ傘を差し、由紀生の傘を持った一人息子の数也がいつの間にか目の前に立っていた。 「お店、もう終わったの?」 「今日、休み」 「あ、そうだった?」 「一昨日、言った」 「え、そうだった?」 「言った」 雨の降り頻る夜道、点々と佇む外灯に照らされた父子。 まさか数也が迎えに来てくれるなんて夢にも思わず、最初は喜んでいた由紀生だが、明らかに不機嫌そうにしている息子の横顔に次第に表情を曇らせていった。 カズ君、怒ってる。 今日がお休みだって忘れていたこと、そんなに気に入らなかったのかな? マンションに到着し、オートロックを解除して中に進み、上のフロアで停まっていたエレベーターを待つ。 いつになく無口な数也は点灯が移動していくフロアパネルを見上げている。 由紀生はそんな数也の横顔をちらちら気にしている。 畳まれた傘の先からぽつぽつと滴る雨滴。 エレベーターが到着した。 「……えっ?」 扉がまだ完全に開ききっていない段階で数也は由紀生の腕を掴むなり乱暴に引っ張った。 そのまま狭いエレベーター内へ雪崩れ込むようにして前進すると躊躇なく傘を手放す。 両手で由紀生の体を力任せに固定して。 急な振舞に驚いている由紀生に、キスを。

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