16 / 134

パラレル番外編-1/吸血鬼息子攻め

由紀生の息子である数也は吸血鬼の血を引いている。 数也の母親が吸血鬼だったからだ。 そんな彼女とは当の昔に離婚し(性格不一致のため)、由紀生は男手一つで数也を育ててきた。 苦難の連続だった。 何せ半分吸血鬼の息子だ。 血を、吸おうと、するのだ。 これまで親戚や、おともだちや、先生を、一体何度がぶりとしようとしてきたことか。 「カズ君、人の血は吸ったらいけないの」 「どーして?」 「どうしてって、人は人の血を吸わないものなんだよ」 「でもぼく、吸いたいよ?」 「だめ。吸ったらだめ。絶対だめ」 月が綺麗な夜、散歩に出かけ、外灯が一つだけある小さな公園のベンチに並んで座って、由紀生は幼い数也に言い聞かせた。 すると数也は。 「……ぐすっ」 泣き出してしまった。 「じゃあ、ぼくは、血を吸いたいって思うぼくは、みんなと、ちがうの……?」 ぽろぽろ涙する数也を由紀生は抱きしめた。 腕の中でまぁるくなった我が子。 たった一人のかけがえのない息子。 何よりも大切な守るべき家族。 「数也、それなら、お父さんの血を」 そうして数也は高校生になった。 「あ、だめ、も、やめて……」 「ん……もうちょっと、オヤジ」 朝の食卓。 ホットコーヒーに香ばしい香りのする焼き立てトースト、半熟目玉焼き、ベーコン、プチトマト。 床に落ちた読みかけの新聞。 仄かに漂う鮮血の香り。 グチュッ 「んっ!」 食卓についた制服姿の数也に正面合わせで腰かけたワイシャツにネクタイ姿の由紀生。 その首筋には息子の乱杭歯が浅く沈んでいて。 正しく数也は朝ごはんを食している最中で。 「あ……もぉ、だめ、だって……カズ君……んっ」 「育ち盛りなんだよ、しゃーねーだろ」 「育ち盛りって……もう十八歳なのに……カズ君、まだ大きくなるの?」 パツキン、顎にぶしょーヒゲ、制服なのに腰付近に何かじゃらじゃらしたものを身につけた数也、現在高校三年生だ。 留年することなく来年何とか無事に卒業を迎えられそうな吸血鬼ハーフの息子、卒業後は年上である知り合いの飲食店に勤める予定であった。 数也が自分自身で導き出した進路、由紀生は一人息子の選択した道を全力で応援してやるつもりでいた。 カズ君、立派になった。 どうなることかと一時は、いや、何度も何度も悩んだけれども、自分で将来をちゃんと決めて、外見はこんなだけど、犬や猫には優しいし、怖い人にはすごく怖いけれど、忘れ物をしなくなったし宿題もしているし、家事も殆どできるようになった。 お父さんの言いつけをちゃんと守って他人の血は一度も吸ったことがない、と、思う。 ただ、その代わり……最近、なんだか……。 「ほんとに……もうだめ……今日、仕事できなくなっちゃう」 数也はやっと由紀生の首筋を解放した。 血の滲んだ傷跡をぺろりと舐めて綺麗にし、顔を上げ、膝上に抱っこしている由紀生の顔を覗き込んだ。 あ、またくる。 「……」 ちゅっと、数也に、キスされた。 唇を伝って訪れるのは自分の血の残り香。 「ごちそーさま、んじゃ、行ってきます」 すぐに唇を離した数也は由紀生をイスに座らせると、スクールバッグを肩に引っ提げ、登校していった。 残された由紀生は床に落ちていた新聞を拾い上げ、もそもそと朝食を始める。 カズ君、どうしてお父さんにキスするんだろう。 冷えてしまったトーストをかじりながら由紀生は首を傾げるのだった。

ともだちにシェアしよう!