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「カズ君、今日お休みだったの?」 「久しぶり、カズヤ君! 僕のこと覚えてるかな!?」 「今日は珍しく定時に上がれたんだよ」 「それでイイコト思いついたんだよ、カズヤ君! 日頃主任にお世話になっているお礼として、晩御飯、作ろうと思ってね、カズヤ君にもぜひ食べてほしいな!」 「カズ君、もしかして熱がある?」 由紀生は廊下でぼんやり突っ立っている数也のすぐ真ん前に歩み寄ると、その額に手をくっつけ、自分の額と熱を比べてみた。 「朝、何だかいつにもましてぼんやりしてるなぁ、って思ってたんだけど。もしかして朝から調子悪かったの?」 次に背伸びをした由紀生は互いの前髪を押し上げると数也の額に額をぴたっとくっつけてきた。 「……ん」 「どうして言わないの」 「主任、それはきっと主任に心配かけさせないためにカズヤ君、敢えて黙ってたんじゃないですか!?」 ばっちり当たってんのが却って腹立つな、このゲス部下。 「そうなの、カズ君?」 「あ! もっとイイコト思いつきました! 僕、カズヤ君のために卵粥作ろうと思います!」 部下が上司宅で物怖じすることなく手際よくつくった卵粥は絶品だった。 「熱いから気をつけてね! あ、そうだ! フーフーしてあーんしてあげようか!」 爽やか笑顔と親切心が過剰な部下を無視して数也は卵粥を完食する。 「お薬飲まないと、それからお風呂は今日は駄目だよ? 体が冷えちゃう。後でタオルで汗を拭いてから着替えようね、カズ君」 いつにもまして優しい由紀生。 甘えたい。 みっともなくていい、年甲斐なくたっていい、大好きな父親にとことん甘えまくりたい。 「主任は休んでてください、後片付けとカズヤ君のお世話は僕に任せてください!」 さすがに職場の部下がいる前ではブレーキがかかる、三十九度近い熱がありながらも冷静さは失われていない数也は早く帰れと言いたげにゲス部下をじろっと見た。 「そうだ! 僕、今日一番のイイコト、思いつきましたよ、主任!」 「何かな」 「僕、今日はこちらに泊まってカズヤ君のお世話します!」 ゲス通り越して鬼畜か、この部下。

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