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その夜、部下は上司とその息子の暮らす家に本当に泊まっていくことにした。 ソファで寝るよう勧めた由紀生に「僕、体は丈夫ですから!」と爽やか笑顔で返事をして……数也の部屋に布団を敷いてもらい、そこで寝ることにした……さすが爽やかゲス鬼畜部下だ。 実は修学旅行や余所のウチでは寝つきがすこぶる悪かった、意外とデリケートな数也は気怠いながらも同じ部屋で寝ている部下の存在が睡眠に支障を来たし、なかなか眠れずにいた。 上司宅ですやすや眠っている部下の爽やか寝顔をじろっと見、反対側に寝返りを打つ。 寝る前に自分で汗を拭いて着替えたのだが、また汗をかいていて、布団の下で広がる不快感。 タオルを手繰り寄せるのも着替えるのも億劫で、無視を決め込み、なんとか眠ろうと瞼を閉ざしていたら。 「カズ君、具合、どう?」 由紀生が部屋にやってきた。 ぐっすり寝ている部下を起こさないよう、忍び足で部屋を進み、ベッドで丸まっている数也を覗き込んできた。 「汗、かいてるみたい。もう一回着替えようか。新しいタオル持ってきたから、体、拭こうね」 「……ん」 薄闇にそっと伝う由紀生の小さな声。 安心する。 まだ幼かった頃、夜中に一人ぼっちのベッドで目覚めて心細くて泣いていたら、リビングにいた由紀生がすぐにやってきてくれたことを数也は思い出した。 それは由紀生も同じだった。 普段は自分を引っ張ってくれる頼もしい数也が、発熱でいつになく弱っている姿にどこか幼さを感じ、心配するのと同時に不思議な懐かしさを抱いていた。 「カズ君、体、起こせる?」 風呂上がりでシャンプーの香りがする由紀生に言われ、数也はのろのろ上体を起こすとシャツを脱いだ。 薄闇に現れた数也の背中。 しっとりしていて、掌をあてがってみれば、吸いつくような感触。 ふかふかのタオルで優しく撫でるように汗を拭いてやる。 「……はぁ」 ふと数也がため息を洩らした。 ベッドに乗り上がって息子の汗を拭いていた由紀生は、ぱちぱち、瞬き。 項垂れた彼の、自分より大きな背中を、うなじを、じっと見つめた。 それは無防備な息子の死角。 由紀生があまり目にしたことのない、大人になった数也の隙。 ……ど、どうしよう。 ……何だか、ものすごく、とても。 「……オヤジ?」 カズ君とシたくなっちゃった。

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