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【高校生編】5-3
バスケ部員の陽真は放課後たいてい夕暮れまで部活に励んでいる。
一年生なので後片付け担当、着替えもあり、学校を出るのは七時前になる。
校門まで部活仲間と何か食べていこうか、どうしようか、そんな話を交わしていた陽真だったが。
校門を抜けたところで私服姿の唯来に声をかけられてビックリした。
「おつかれ、陽真。ハイ、コーラ」
こんなの初めてだった。
どうしようもなく舞い上がって、必死で落ち着かせて、仲間に別れを告げて唯来と並んで歩き出す。
「雨、今止んでるね」
唯来、俺に会いにきてくれたんだ。
すごく嬉しい。
あれ、だけど、今どこに向かってるんだろう?
唯来が向かった先は学校から二十分ほど歩いた高台にある公園だった。
メインは草野球のできるスペース、横手にブランコと滑り台がある園地となっていた。
雨上がりで遊具もベンチも濡れていた。
割と広い施設ながら人の気配はどこにもない。
常緑樹や茂みに囲まれた園内の隅には掃除用具収納の大きな物置が設置されていた。
ぐるりと張り巡らされた背の高いフェンス。
大きな物置。
その隙間にて。
「俺……ッ汗くさいから……」
フェンスの向こうは斜面で草木が鬱蒼と生い茂り、人目を気にする必要はない。
さも重たげなスポーツバッグが湿った地面に放り投げられている。
「だから……今は、ちょっと……」
お世辞にも広いと言えないスペースで唯来と向かい合った陽真が俯きがちにそう言えば。
唯来はより身を寄せてきた。
「ッ……」
「別に。平気」
「で、でも……あ」
真正面から唯来に抱きつかれて陽真は胸が壊れそうになった。
たどたどしく背中に両手をあてがう。
キュ、とピンク色のTシャツを握りしめる。
「週末まで待てなくって」
スリ、とマッシュブラウンの髪の毛が頬に触れてくすぐったい。
「あ。陽真のにおい、すっごい、する」
「い……言っただろ、汗くさいって」
「いーにおい」
倉庫に寄りかかった陽真の制服シャツが湿っていく。
すっかり暗くなった時刻、外灯の明かりが僅かに付近を照らしていた……。
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