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第225話
「無理はしないで、嫌だったら言ってね」
「……ん、」
まるで割れ物を扱うかのように、その手つきは優しくて、慎重で。
僕の様子を伺いながらゆっくりと服を脱がしていく。
服の下からはあの男に暴行された痣が無数にあり、痛々しかった。まだ痛いが、今はそんなのどうでも良かった。
あの男を思い出したくなかった。
痛くてもいい、アリスで満たされたい。
アリスは腹の痣を優しく撫で、悲しそうな表情で下を向いている。
そんな顔しないで。 いつもみたいに笑って。
「アリス……」
「ごめん、俺がもっと気にかけていればこんな事にはならなかったのに……」
「ッ、 僕は、大丈夫だよ。 こういうの、慣れてるし……」
そうだ、風俗にいた時は暴行されるなんてよくあったし……。 慣れたらこんなのどうて事無い。
安心させようと、精一杯笑って見せた。
ちゃんと笑えてるかな。
なのに……なんでそんな悲しそうな顔をするの。
なんでそんなに泣きそうなの。
アリスは痛くないのに。
「どうしてアリスが泣くの……? どこか痛いの?」
「白雪が泣きそうだから、俺も泣いてるの……。 俺は白雪みたいに暴行された訳じゃない。痛くはないよ。でも……」
綺麗な瞳に薄い膜が張って、キラキラしている。 涙でしっとりした長い睫毛が揺れた。
「俺は心が痛い。 もっと俺を頼ってよ。そんなに頼りないかな……?」
「ちがっ……」
気づいた。僕は、間違った選択をしてしまったのかもしれない。
アリスの事を考えずに、僕一人だけで解決しようとして……。結局迷惑をかけてしまったけれど、それは迷惑じゃなくて。
僕の事を一番に考えてくれているからこそ、一番初めに相談して欲しかった、頼って欲しかったのだと。
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