224 / 267

第225話

「無理はしないで、嫌だったら言ってね」 「……ん、」 まるで割れ物を扱うかのように、その手つきは優しくて、慎重で。 僕の様子を伺いながらゆっくりと服を脱がしていく。 服の下からはあの男に暴行された痣が無数にあり、痛々しかった。まだ痛いが、今はそんなのどうでも良かった。 あの男を思い出したくなかった。 痛くてもいい、アリスで満たされたい。 アリスは腹の痣を優しく撫で、悲しそうな表情で下を向いている。 そんな顔しないで。 いつもみたいに笑って。 「アリス……」 「ごめん、俺がもっと気にかけていればこんな事にはならなかったのに……」 「ッ、 僕は、大丈夫だよ。 こういうの、慣れてるし……」 そうだ、風俗にいた時は暴行されるなんてよくあったし……。 慣れたらこんなのどうて事無い。 安心させようと、精一杯笑って見せた。 ちゃんと笑えてるかな。 なのに……なんでそんな悲しそうな顔をするの。 なんでそんなに泣きそうなの。 アリスは痛くないのに。 「どうしてアリスが泣くの……? どこか痛いの?」 「白雪が泣きそうだから、俺も泣いてるの……。 俺は白雪みたいに暴行された訳じゃない。痛くはないよ。でも……」 綺麗な瞳に薄い膜が張って、キラキラしている。 涙でしっとりした長い睫毛が揺れた。 「俺は心が痛い。 もっと俺を頼ってよ。そんなに頼りないかな……?」 「ちがっ……」 気づいた。僕は、間違った選択をしてしまったのかもしれない。 アリスの事を考えずに、僕一人だけで解決しようとして……。結局迷惑をかけてしまったけれど、それは迷惑じゃなくて。 僕の事を一番に考えてくれているからこそ、一番初めに相談して欲しかった、頼って欲しかったのだと。

ともだちにシェアしよう!