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第230話
「ゆーくんなんて知らん!ニンジンと結婚しとけバカァァ!!」
俺は家を飛び出した。
だってゆーくんが悪い。100%ゆーくんが悪い。
俺の気持ちも知らないで……。
飛び出してきたのはいいものの、今手元にあるのはスマホだけ。財布も持ってないから朝ごはんも食べられないし、電車に乗ろうと思っても切符も買えない。
どうしよう……
とりあえず友達の家に……と思ったが、友達の律(りつ)は締め切り前だし、夏樹(なつき)は今日から1週間県外に研修に行くとか言っていた……
タイミング悪すぎ……
「お腹すいた……」
行く宛もなく適当に街をブラブラするが、お腹空いたし足がフラフラする。
細い裏路地を入った場所にあるベンチに座りお腹を鳴らしていると、いい匂いがした。
コーヒーの匂い……。
すぐ近くにコーヒー専門店『Vanilla』という看板があった。
「いい匂い……。お腹空いたなぁ……」
グー……と大きなお腹が鳴る音が聞こえる。
「ふふっ、お腹空いてるの?」
「うわっ?!」
ベンチの後から急に声をかけられ、ひっくり返りそうになった。
たぶんここのコーヒー店の店主だろう。名札には『店長 村田』と書いている。
なんかフワフワしてる人だなぁ……こんな人がお店経営していけるんだなぁ……
「コーヒー飲む?」
「いや、でもお金持ってへんし」
「一杯くらいなら大丈夫だよ。まだ開店してないんだけど、特別ね」
心優しい店長さんの言葉に甘えて、お店に入れてもらった。中はすごくお洒落で、落ち着ける空間だった。
裏路地に店を構えていなければ、かなり人気なお店になりそうだけど。
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